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隣_4

どれだけドアに触れても浅井の温もりは伝わってこない。 たった一枚のドアなのに、分厚い壁のように感じる。 「あの後智から連絡貰って、すぐ浅井のこと探しに行ったんだ。正直最初は漠然と見つけられるって確信持ってた。約束なんてなくても、いつも隣に居たから……だから見つけられるんじゃないかって勝手にそう思ってた…」 「…………」 「けど全然ダメだった。俺じゃ全然ダメだった……ごめん、ごめんな……」 俺と浅井には特別な何かがあると錯覚してた。 でも実際そんなものはなくて、いつも隣に居たのは浅井が必死に俺を追いかけて来てくれていただけだ。 「……………いいよ、謝らなくて。てか篠原が謝ることじゃないし。俺、全然平気だから」 「嘘つくなよ」 「嘘じゃないってば。俺は平気!」 「………じゃあどうしてこのドア開けてくれないんだ?」 「それは………」 「顔も見せない、電話も出ない、メッセージも返さない……そんなお前をどうして平気だなんて思える?」 すぐに言葉は返ってこない。 少しの間の沈黙は張り詰めた空気を流した。 「………本当に平気。怪我もしてないし、体調も悪くない。ただ……ちょっと疲れただけ」 「疲れた……?」 「だって俺、もう頑張りたくない。頑張れない。もう嫌だ……っ…」 「浅井?」 「ぅ……も、っ…篠原のこと追い掛けるの、疲れた……っ」 途端、耳に届いた物音と遠ざかる足音に慌ててドアノブに手を掛けた。 それは拍子抜けする程簡単に開いたが、中に浅井の姿はない。 窓が開いていることに気付き、駆け寄って外を覗くと走り去っていく背中が見えた。 くそ……また…………。 かなり離された……俺の足じゃ多分追い付けない。 でも追い掛けないなんて選択肢、あるわけがないだろ。 窓の縁を乗り越えて、距離の空いた背中を追う。 息が苦しい、走っても走っても距離が縮まらない。 だけど浅井はきっと、もっと苦しかった。 もっとずっと長い間俺を追い掛けてくれた。 「……諦めて、たまるかよ……っ……」

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