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隣_5
浅井は曲がり角の多い道ばかりを選んでる。
撒く気満々ってか………。
こっちの方角ってことは十中八九向かってるのは浅井の家だ。
先回りするのは簡単だが万が一にも行き先を変えられたら困る。このまま後ろを走って追いつくしかない
足は速いが持久力がないことが浅井の欠点だ。
だからジワジワと距離は縮まってはいるものの、浅井の家に着く前に追いつけるとは到底思えない。
あと一つ角を曲がるともうそこは浅井の家だ。
ちょうど最後の角を曲がると浅井はアパートの外階段に向かってラストスパートをかけていた。
どうする……家に入られたらまた振り出しだ……その前に捕まえたい……。何とか浅井の前に出ないと……このまま追ってるだけじゃ絶対に間に合わない。
何か……何か方法は………。
張り巡らせた視界に映ったのは、アパートの敷地を区切る塀。
外階段手前に設置されてるそれは俺の胸ぐらいの高さはある。
あれを踏み台にして階段まで飛び超えれば浅井の前に出られる………でも塀と階段の間にもそこそこな距離……。
いけるか…?いや、やるしかない。それしか方法がないなら。
浅井が階段を上がり始め、俺は同時に塀へとよじ登り、一呼吸の間に階段へと飛び移った。
ギリギリで掴んだ手摺。それを利用して身体を持ち上げ、手摺の中へ身を乗り入れる。
人生で初めてαの身体能力の高さに感謝した。
一部始終を見ていた浅井は俺よりも低い位置で目を丸くして固まっている。
「え、嘘……そんなんあり…?――って……わ、ちょ、ちょ、待っ」
後退ろうとした浅井が階段を踏み外し、体が下へと傾いていくのを見て咄嗟に手を伸ばした。
浅井の身体を胸に抱いて、数段の階段を転がり落ちていく。
「いったたたた……し、篠原!篠原大丈夫!?」
「何とか……」
背中は痛いけど幸い頭は打たなかったし、落ちたのも数段だけだ。
「良かっ…………あ、離、離して……!」
俺の無事を確認した途端、逃れようと暴れる浅井。
胸を押し返してくる力は強いけど、簡単に負けてやる気はない。
浅井の背中に回した腕をこれでもかと引き寄せて、身動きが取れない程強く抱き締めた。
「――逃げるなよ。頼むから、ここに居て」
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