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隣_8

浅井の気持ちを疑ってる訳じゃないが、あのαを頼ったのは事実。 「アイツ……?」 「ここに来てた、俺を追い返したαの男」 「ここに………あ、待って篠原。それなんか誤解してる気がする……」 「誤解?」 「それ兄さん…二番目の………」 兄さん………そう言えば二人居るとか言ってたような……。 「え!?あの人がお兄さんなのか!?全然似てない……ってかチャラかったぞ……かなり」 「うん、まあ……似てないのはね。俺だけ父親違うんだ。でも両親同じの兄さん同士も全然似てないよ。上の兄さんはすごい真面目な人だから」 「そう……なのか?」 「うん。このアパートも一番上の兄さんが貸してくれてる」 もしかしなくても浅井の家って結構複雑だったりするのか…? 「ごめん、全然知らなくて」 「え、いいよ。そんな不幸って訳でもないしさ」 「そっか、でも……そういうのも含めて、もっとちゃんと浅井のこと見ていくから」 「……………」 「まずはこの一週間のこと教えてほしい」 更に力を込めた腕にそっと浅井の手が沿えられて、小さく「……うん」と声が聞こえた。 見れば耳も項も赤く色付いてる。 あ………項、噛まれてない。 浅井が俯いた事で晒された項は綺麗なままで、思わず安堵のため息が溢れた。 「…………よかった」 「え?」 「ここ、噛まれてなくて」 項を噛むことで結ばれる番関係。 αとΩの間で行われるその行為には強い結びつきがある。 Ωが選べる番の相手は人生でたった一人きり。 「あ……そういう……」 「まあ、噛まれてても諦める気なんて更々なかったけど」 それでもやっぱり……。 「やっぱり嬉しい」 表現しようのない嬉しさに浅井の後頭部へ額を押し付ける。 「え、あの、篠は――」 「――悪い………少しだけ。俺にもまだチャンスあるんだって思ったら嬉しくて」

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