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隣_9
腕に沿えられたままだった浅井の手に、ぎゅっと力が込められて小さく「………俺も」と応えが返ってくると、更にやり場のない感情が湧き上がってくる。
「……ごめんな、リビング行くか」
平然を装って身体を解放してやり、リビングに向かう背中を見つめた。
あっぶな………キスするところだった……。
俺ってこんなに堪え性ない男だったか?
「篠原?」
呼び掛けに意識を引き戻せば、リビングから来ないのかと首を傾げる浅井。
「ああ、ごめん。考え事してた」
廊下を抜けた先のリビングにはラグとテーブル、小さなテレビがあるだけで他には何もない。
ゲームや漫画すらなく、娯楽とは遠い部屋。
浅井本人が言うように面白みには欠けるが、不思議と居心地はいい。
テーブルの近くにちょこんと座った浅井に倣って、その隣へと腰掛ける。
「あ……隣…………」
「嫌?」
「…やじゃ、ない………」
「ん」
肩が触れ合う。
そう言えば前にもこうして並んで座ったな……。
いつだったか………ああ、そうだ。俺が失恋した時だ。
触れた肩が微かに震えてることに気付いて、隣をそっと盗み見る。
膝を抱えて身を丸くした浅井はずっと顔も耳も赤いままで、そろそろ熱でも出すんじゃないかとさえ思う。
でも離れてやれない。離れたくない。
「………本当に怪我とかはしてないんだよな?」
「うん、それはしてない。本当に」
「そっか。………話、聞いてもいいか?」
小さく頷いた浅井は前を向いたまま、俺の方は見ようとしない。
「あの日家飛び出した後、絡まれてる水野見つけて……。まあ、助けようとしたわけだけど……最初は水野から引き離して、俺一人になった所で逃げてやろうって考えてた。でも一人上級αが居て……」
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