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隣_14

「あ……えっと…………何でもない」 「…………浅井、隠し事はなしだ。ちゃんと教えて」 「……………………」 「ほら、浅井?」 さっきまでの篠原とは打って変わって険しい表情。 何か勿体ぶってしまった分言いにくい…………。 「…………き、キスされた。多分……」 「キ…………、何でもなくないだろ、それ」 あ……篠原、怒ってる……。 「なあ、まさか初めてだったとか言わないよな?」 …………そのまさかまさかだったりする。 αは勘がいいからな……。 だって俺の初恋篠原だもん。そりゃ初めてでしたよ。 初キッスでした! とは、到底言えない。 だってめっちゃ怒ってる……。 「浅井?」 「え、いや、そんなまさか……俺だって大学生だし、キスぐらいした事あるってば……」 「本当か?」 「ほ、本当…………」 うわ……めちゃくちゃ疑われてる……。 「でもお前、ずっと俺の事好きだったんじゃないのか?」 「し、篠原と会う前!篠原の知らない人と!」 「ふーん……」 疑いの眼差しが痛くて思わず目を逸らす。 「――…………なあ、俺もしたい」 「……………………え?」 「俺もキスしたい。していい?」 疑問系の割に篠原の手はしっかりと俺の顎を掴んで、全然逃がそうって気がない。 「ま、待って!落ち着いて!俺、無理!息、息止まるから!」 「鼻ですれば大丈夫だって。俺とじゃ嫌?」 「そ、そう言う訊き方は、ずるいって……」 そうだなって笑った篠原は多分全く話を聞く気はなくて。 「ま、待って!ほんと息も心臓も止まっ――ん……ぅ… ……っ!?」 抵抗も虚しく、容赦なく押し当てられた唇が、俺の言葉を飲み込んでいったんだ。

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