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隣_21

その表情のまま顔を近付けられて正直逸したいけど、ここはグッと堪えて我慢。 間近で見る篠原の瞳は若干茶色掛かっていて思わず吸い込まれそうになる。やっぱり格好良い。 ぼーっとその瞳を覗いていたら、不意に唇に柔らかな感触が当たった。直ぐに離れていったそれに理解するまで数十秒。 え、今キス、した……? 「え、な、えっ!?」 「お、さっきよりも真っ赤だな」 「みんな居るのに、何して……」 「一瞬だったし大丈夫だって。浅井はさ、ちょっと無防備すぎるからもう少し警戒心持った方がいい」 今度は頬じゃなくて額を突かれた。 「痛っ!」 「あと俺が嫌だからあんまり他の男にときめくなよ」 「と、ときめいてない!絶対!」 「はいはい、そういう事にしといてやろう。行くぞ、遅刻する」 「あ、待って!本当にときめいてないからな!絶対そんなことないから!」 結局意地悪な篠原は講義室に着くまで「へえ」とか「ふーん」とか曖昧な相槌ばっかりで揶揄うばかり。そりゃもう楽しそうに笑ってさ。 「……やっぱ篠原、意地悪」 席につく頃には、すっかり俺の方が不貞腐れていた。 「はは、必死なの可愛くってさ。まあでも、嫌なのは本当だから」 右隣から伸びてきた手に頭をポンッと叩かれるだけで、機嫌が直るんだから俺もチョロい。 「ズルい……」 「ん?」 「なんでもない!今日も格好良い!」 それから始まった講義はいつも通りの風景で、合間合間に覗き見た篠原の横顔もいつも通り。 だけど時々目が合って言われる「ばか」って言葉が、何だかいつもより優しくて甘かった。あと少しだけ目の合う回数が増えた気もした。 嬉しくて幸せ。こんなに幸せで大丈夫かな? 俺、明日にでも死んじゃうんじゃないかな? でもいっか……。もう後悔ないや。 今ならこの胸の痛みで心臓止めたっていいや。 この気持ちのままで居られるなら、それ以上のものなんてないんだから。

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