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隣_22
講義終わりにレポートを提出しに行く篠原に、先に行っててくれと言われて、俺は一人門の前に立っていた。
まだ水野も字見も姿を見せていない。
こうして待ってると行きたくない気持ちが募る。
やっぱ帰ろうかな……篠原、怒るかな……。
あー、でも二人見てると絶対モヤモヤするし、字見は苦手すぎるし……帰るなら今のうち……。
…………よし、帰ろう!
決意を固め、胸元で抱えていたリュックを背負う最中、「お待たせー!」と明るい声が近付く。
やば……逃げ遅れた。
ごめんね、と意気揚々に現れたのは水野一人。
「字見は?」
来たくなさそうだったし、連れてこれなかったのか?
だったら俺も……と淡い期待が胸に過ぎったが、水野の自信満々な笑顔から察するにそうではなさそうだ。
「多分すぐ来るよ。ほら」
見せられたのは水野の手に握られた鍵。
「何それ?」
「字見くんの家の鍵」
「…………え?」
「奪ってきたからすぐに追いかけて来ると思うよ」
いや何誇らしげに語ってんだ、コイツ。
「……大丈夫なのか?そんなことして、アイツめちゃくちゃ怒りそうだけど」
「大丈夫、大丈夫。案外怒んないよ、字見くん」
そうなのか?
俺のイメージする字見ってめちゃくちゃ怒りそうなんだけど……。よく分かんない二人だな。
「まあ、大丈夫ならいいけど……」
「浅井くんが僕の心配してくれてる……嬉しい!」
「うわっ、ばか、抱きつくな!お前何ですぐ抱きついてくんだよ!?」
「えー?浅井くんと仲良くなりたいから!」
「俺は!なりたくない!はーなーれーろー!」
力尽くで引き剥がしてやろうと身体に回る水野の腕に手を伸ばした。こんな細腕、すぐに剥がして……。
「――……ごめんね」
力を込める寸前で水野の呟きが耳へ届く。
「僕のせいで浅井くんに怖い思いさせちゃったよね。本当にごめんね。……なんで僕、人から見てすぐに分かるような、こんなにΩらしい容姿なんだろう」
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