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隣_26
嘘臭い笑顔を取り戻した榛葉とは対象的に篠原の表情は険しい。
「この前浅井のこと連れてったのってお前?」
「あはは、痛い痛い。手、離してくれないかな」
「質問に答えたらな」
「怖いなぁ。うん、そうだよ。でも宗一くんのお兄さんに連絡して助けてあげたのも俺。むしろ感謝してくれてもいいと思うんだけどな」
「感謝?」
「痛いなぁ……そんなに握られたら血が止まっちゃうよ。質問には答えてあげたんだから、約束通り離してくれる?」
篠原の手が離れると榛葉は後退して俺達から距離を取る。
「おかしいなぁ。宗一くんのあの感じだとてっきり片想いなんだと思っていたから、篠原くんにそこまで怒られる筋合いはない気がするんだけど……。ああ、もしかして最近恋人同士にでもなったのかな?」
「…………だったら何だよ?」
怒りを顕にしながら篠原は力強く俺の肩を抱いてくれた。
こ、こんなに怒ってる篠原初めて見た……。
「そっか、そっか。それはおめでたいね。宗一くんおめでとう。あ!じゃあ一つ謝らなきゃね」
「?」
篠原は首を傾げたけれど、俺は嫌な予感が胸中を渦巻く。
「ま、待って!言わな――」
「宗一くんのファーストキス奪っちゃってごめんね?」
「ぁ………」
「いやだってさ、宗一くんずっと泣くの我慢してたのにキスした途端、“篠原、篠原ぁ”って言いながら泣き始めるんだもん。ああ、初めてだったんだなって思って。だからごめんね?」
肩に置かれていた篠原の手に、ぎゅっと力がこもる。
俺は怖くて隣の顔が見上げられない。
怒ってる。絶対……。嘘ついたこと怒ってるよ……。
「はは、でもそこからの宗一くん凄く素直で可愛かったなぁ。俺のフェロモンで浮かされちゃって、宗久に連絡する前にもう少し遊んでも良かったかもね」
「…………なあ、もういいか?」
「うん?」
「好きな奴のそういう話聞かされて平気なほど、俺は優しくない」
「………………」
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