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隣_27

睨み合いがあったのかなかったのか、顔の上げられない俺には分からなかったけど、少しの沈黙が流れたのは確か。 それから榛葉の短い溜め息が聞こえてきて、盗み見た先では肩を竦めた姿がやれやれと首を振っていた。 「なーんか面倒臭いからいいや。宗久には別の方法でコンタクト取ることにするよ」 そう踵を返した榛葉を篠原は呼び止める。 「待てよ」 「何?」 「もう俺の目の届かない所で浅井に接触するな」 「えー、それは約束出来ないな。だって宗一くんのお兄さんの事狙ってるし、その過程で偶然会うことだってあるしね。心配なら、側を離れなきゃいいだけだと思うよ?大事ならちゃんと捕まえとかないと」 そのまま榛葉の足音は遠くへと消えていく。 「…………何だよ、アイツ」 呟いた篠原の声音はいつもよりも低くて、少し怖い。 それから肩を抱いてくれていた手が離れ、俺もホッと胸を撫で下ろした途端、それまで大人しくしていた水野が離してくれと言わんばかりに声を上げた。 「――ん!んん!!」 「あ、悪い、忘れてた……」 「ぷはっ……はぁ……はぁ……息、死ぬかと思った……」 再度悪いと謝った俺に大丈夫だと眉尻を下げる水野。 「今度は僕が助けたかったのに、また浅井くんに助けられちゃった……ごめんね」 「え、あ、いや……助けてくれたのは篠原だし……」 榛葉の立ち去った方を見据えていた篠原は、俺達の視線に気が付くと笑って手を伸ばしてくる。 隣に居る水野の頭でも撫でるのかなって思った俺は一歩距離を取ったのだけど、篠原は首を傾げて怪訝な顔をした。 「何で逃げるんだ?」 「え……?いや、逃げたわけじゃ……邪魔かなって……」 「邪魔?何で?」 と伸びてきた篠原の手は水野じゃなくて俺の頭の上。 「大丈夫か?」 「あ……う、うん……平気」 水野じゃなかったんだ……。 「智は?」 「僕も大丈夫!浅井くんのお陰!」 そんな会話が繰り広げられる中でも、撫で続けてくれる大きな手がとても擽ったかった。

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