114 / 139
隣_28
「でも遊びに行くような雰囲気じゃなくなっちゃったね……また日を改めて――わぁ!?な、なに!?」
「――捕まえた」
突然水野の身体が宙に浮いたのは、音もなく忍び寄ってきた字見が両脇に差し入れた手で抱え上げたからだ。
「あ、字見くん」
「全く……俺の家の鍵、返して」
「あ、そうだった!ごめんね、でもこれぐらいしないと来てくれないでしょ?」
あの字見相手に物怖じしない水野には感心する。
「俺は行かない」
「え、ちょっと待って!どこ行くの!?」
「帰る。智也が鍵持ってるなら連れて帰ればいい」
俺達には見向きもせず字見は水野を肩に担ぐと、そのまま踵を返した。
「あ、もう!浅井くん、みーちゃんごめんね!今度!今度絶対遊ぼうね!」
叫ぶ水野の声はあっという間に遠くへと運ばれ、俺と篠原は止める間もなくその場に残された。
「……行っちゃった」
「まあいいだろ。どのみちそんな気分じゃなかったしな。俺も浅井のこと連れ帰ろうと思ってたし」
「?」
「嘘、ついたろ?」
「あ…………」
「アイツとしたのが初めてだったんだ?」
「………………」
違うって否定したところで、もう無駄だ。分かってるけど素直に頷くには、あまりに篠原の威圧感が凄い。
どうしたもんかと言い淀んでいたら、急に手を取られて身体は引っ張られながら歩き始める。
「な、何?どこ行くの?ねえ、篠原?」
「俺、今結構苛立ってるから、黙ってついて来て」
「……………」
言葉の通り握ってくる手の力は強くて、俺なんかじゃ外せないって分かる。
「…………悪い。苛立ってるのは浅井にじゃないから。それだけは言っとく」
それっきり口を閉ざした篠原に、俺もまた口を閉ざして、少しだけ手を握り返してみたりした。
ともだちにシェアしよう!