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隣_29

無言のまま篠原が向かったのは俺の家、かと思いきや意外にも篠原の家だった。 「し、篠原……?」 「大丈夫。父さんも母さんも仕事だし、臣海と千歌は今日公園に行くって言ってたからまだ帰ってきてない」 玄関に入る前に僅かに抵抗してみたけどもちろん無駄で、手を引かれる力に足が縺れそうになりながら何とか靴を脱ぐ。 階段を上がりきって直ぐの篠原の部屋。 引きずり込まれた身体は、そのままベッドに転がされて、リュックは床へと投げ捨てられる。 「え、何?何すんの……?」 「そんな怯えんなよ、別に無理矢理ヤッたりしないから。そのために俺の家にしたわけだし」 「?」 「浅井の家行ってたら歯止め利かなそうだったから。付き合ってすぐ手出したりしたくねーし、そう言うのは浅井の心の準備出来てからにするって決めてる」 そう言いつつも篠原までベッドに乗り上げてくるから、条件反射で俺はベッドの端の方へと身を寄せた。 「でもやっぱムカつくもんはムカつくし、嘘つかれたのも傷付いた」 「嘘ついたのは、ごめんなさい……篠原怒ってたから言い出せなかった……ごめん」 「悪いと思ってる?」 小さく返した頷き。 「そ。だったら……」 ベッドの軋む音がして、次の瞬間には近くに体温を感じる。 「――浅井からキスして」 「え……」 見上げた顔はすぐ近く、両脇には逃さないと言わんばかりに篠原の両手。背中はもちろん壁だ。 「アイツとしたのがファーストキスなら、浅井からした事ってないんだろ?だったら、初めては俺にして」 「え、そんな……無理!無理!」 「してくれないと機嫌直らないんだけど」 「うっ…………」

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