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隣_33
一頻り笑い終えた篠原は、もう一度額を俺の後頭部へと宛行った。
「浅井が何となく俺の気持ちを信じ切れてないのは分かってる。出掛けるのを渋ってたり、頭撫でようとした時に距離取ったのだってそれが原因なんだって分かってる」
「……………………」
「けど俺は本気だから。そう言うのも含まえて今はまだ番えないって言うか、卒業までには疑う余地なんてないぐらい証明してみせるよ。だからさ――」
柔らかい生暖かな感触が一瞬、項に触れた。
それが篠原の唇だと認識するのに数秒の間。
「……それまで誰にも取られたくないから、ここに証 付けさせて?もう後悔したくないから、出来る事はしておきたい。もちろん側を離れるつもりもないけど、それでも、気休めでもしたい」
「〜〜っ…………」
「ダメか?」
こんな事言われてダメなんて言うわけないのに。
「……い、いよ…………でも一つだけ条件」
「ん?」
「もし、もし万が一にでも篠原が俺に飽きたり、別の人を好きになったり……やっぱりみ、水野の方が良いって少しでも思ったなら遠慮せずに言ってほしい」
「…………」
「俺、篠原に好きって言ってもらうのが目標だったから、本当にそれから先の事とか考えてなくて。今もう十分幸せだし、この思い出だけでも生きていける気がするから……」
一生向くことがなかったかもしれない篠原の気持ちが、ほんの一瞬でも俺に向いた。例えそれが一時のものだとしても、これ以上に幸せなことなんてない。
「だから約束したからって無理に番になってくれなくてもいいんだ。篠原、優しいからさ。約束とかしちゃうと変な使命感みたいなの持っちゃいそうだから…………そこは遠慮しないで、ちゃんと言ってほしい。それが条件……」
「…………分かった」
返事の声は固くて、どんな表情をしてるのか俺には想像もつかない。
「けど、いらん心配だと思うぞ」
「……そんなの分からな――」
「俺は一度好きになったらしつこいし、一途な男だ。それはずっと側で見てきた浅井が一番良く知ってるんじゃないか?」
「………………」
「まあ、好きなだけ疑ってくれていいけどな。そんな隙もないぐらい愛し切ってやるって決めてるから」
ぬるっとした感触が項を滑り、身を捩る間もなく強く吸われたそこから、チクッとした痛みと熱がジワリと全身に回っていく。
「ぅあ……っ……」
「覚悟しとけよ」
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