123 / 139

隣_37

だからありがと、と再度述べられた礼を置いて臣海の手は離れていく。 良かったと安心したのも束の間。 「アンタのこと嫌いじゃないから、兄さんに捨てられたら俺が貰ってあげてもいい」 「……え!?」 突拍子もない言葉が飛んできて、素っ頓狂な声が出た。 「気に入ったって事。いつでも捨てられて来ていいよ」 「――捨てるわけないだろ」 「何だ、もう戻ってきたの?」 呆気に取られる俺の代わりに臣海の言葉を否定してくれたのは飲み物を手に戻ってきた篠原。 「臣海、浅井に変な事言うなよ」 「別に変な事じゃない。可能性がゼロってわけでもないしさ」 「ゼロだ、ゼロ。余計な事言って浅井のこと不安にさせんな」 「ふーん、兄さんって独占欲強いタイプなんだ。意外」 おお……何か普通に会話してるじゃん……良かった。 めちゃくちゃ啀み合ってる気もするけど。 「浅井は俺の恋人だぞ。間違っても手出すなよ」 「どうかな。本人が俺を選ぶって可能性もあるんじゃない?さっき俺の顔に見惚れてたし」 あ、馬鹿、余計な事……。 案の定、篠原からは冷たい視線が向けられて俺は首を横に振る。 「ち、違っ、笑った顔が篠原に似てたから、だから、その……」 「ほーう……」 お、怒ってらっしゃる……。 「――はい!あさいくんは千歌のだからお兄ちゃん達にはあげません!」 何かを察したのか察してないのかは分からないけど、千歌ちゃんはベッドに乗り上げて俺の首元へと抱きついてくる。 「ね?あさいくん?」 「う、うん」 下から覗き込んでくる千歌ちゃんが可愛くて思わずぎゅっと抱きしめ返した。 「千歌、浅井は俺の――」 「――兄さん、妹にまで嫉妬なんて大人げないよ」 「……………………」 押し黙る篠原をちょっと可愛いく思ってしまったのは、俺だけの秘密にしておこう。

ともだちにシェアしよう!