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恋人_2
「番になりたいとは言ったけど、なれないからって怒ったり呆れたりしないから。そんな風に泣くなよ」
「…………っ……う……ぅ……」
優しい言葉を聞けば聞くだけ涙はポロポロと落ちていく。
困ったな、と言いつつも篠原が頭を撫でてくれる手は動きを止めない。
「全然止まんないな」
「……っめなさぃ……ごめ、なさ……」
「謝ることじゃないって。…………やっぱさ榛葉の一件がトラウマになってる?」
「ぇ…………」
「ほらあの時って服脱がされたって言ってたから……。浅井の気持ちが落ち着くまで俺は何年だって待つ。けどそんなに泣く顔を毎回見るのは辛いから、俺も一緒に考えさせてほしい」
嬉しい、優しい……篠原が俺の事大切にしてくれてるって言うのは充分分かってる。
榛葉の一件は確かに怖かったし、今でも覚えてるけど俺が一番怖いのはそんな事じゃなくて……。
「うぅ……っぁ……」
「え、あ、ちょっ……ごめん、嫌な事思い出させたよな。よしよし」
「違っ……違う……っ……おれ、そんな事が怖いんじゃなくて……」
「ん?」
「な、萎えられるのが…………怖くて……」
いつまでもウジウジと情けないと思う。でもこんなにも愛される幸せを知ってしまうと、無くしてしまう想像が怖い……。
もし篠原が俺の身体見て失望したらどうすればいいんだろう。やっぱり無理だって言われたら、俺頑張って笑えるかな。
「……萎えるって…………俺が?」
「だって、俺、本当にΩらしくないし……わ、割と筋肉もちゃんと付いてて……水野みたいに華奢でもないし……。か、身体見て萎えられたら俺、立ち直れない……」
「………………」
顔を見るのが怖くて涙が溢れる目をぎゅっと瞑る。
篠原の手が止まって聞こえてきたのは大きな溜め息。
呆れられた?そりゃそうか、そうだよな……。
「ごめ、……ごめっなさ……」
「いや違うから、怒ってない。……怖いと思ってんのはそれだけ?他には?」
「他……ほかは、ない……と思う……」
「そっか」
頭の上から温もりが離れていって、切なさにまた鼻の奥がツンとした。
「浅井、こっち向いて」
「や、やだ……篠原呆れてるもん……やだ……」
「大丈夫だから。こっち向いて」
「……………」
声音は変わらず優しい。
恐る恐る目を開けて、多分涙でグシャグシャの顔をゆっくりと持ち上げた。
そうしたら思いの外篠原の顔が近くて、声を上げる間もなく唇が触れ、離れていく。
「…………ぁ……きす」
「気付いてやれなくてごめんな。俺なりに浅井の事ちゃんと見てるつもりだったけど、まだまだ全然足りてないな」
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