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17 : 初めての贈り物
脱げと言われたことがあまりに予期しえぬことだったのだろう、ココは硬直して動けずにいる。その顔には戸惑いの色が広がっている。
「下穿きは付けているのか」
その問いにココは肩をびくりと揺らし、耳を赤くする。
「……もう包帯は取れましたが、下着はまだ穿いていません。肌に障るので……」
「ではまずは私に背を向けて、その長ったらしい長套衣 の裾を腰まで捲りあげてみろ。おまえにも出来る簡単なことだろう?」
「……えっ………ですが………」
「私は既におまえの体を見たことがあるのに、尻を見せるのがそんなに恥ずかしいのか?」
ココは恥ずかしげに顔を赤くし、躊躇うように視線を泳がせる。その様子に己の心が優越感で満たされていくのを感じながら、ハイネは意地悪く獣の唇を笑み歪める。
「バローの子供。おまえの主人は誰だ?」
「……………ハイネ様です」
「この私にはおまえの心も体も自由に扱う権利がある。違うか?」
「………………違いません……」
「では私に逆らうな。私の所有物 だと自ら宣言したその覚悟は口先だけのものだったのか」
ココは必死で顔を横に振る。そんな少年追い詰めるために、ハイネは故意に優しい声で囁きかけた。
「私はおまえに、自らの覚悟を示す機会を与えてやると言っているんだ」
「………はい」
「私の言うことが聞けるな?」
少年はちいさな背をさらに丸めてちいさくして、消え入りそうなくらいか細い声で答えた。
「……………わかりました………それが……あなたのお望みならば………」
震えているココその声は、獣の耳にはたまらなく心地よく聞こえた。
「では私がこの手でおまえの可愛い尻に焼いてやった印を早く見せてみろ」
急かされたココは無言でハイネの目を見つめた後、意を決したように背を向けた。そして小さな手で膝の辺りを掴むと、そっと長套衣の裾をたくし上げていく。ハイネの眼前には日に焼けていない足首、続いてほっそりとした脹脛 が現れた。
棒切れのように貧弱な脚ではあるが、まったく日に焼けていないその肌は目が奪われるほどの白さだ。存外悪くないかもしれない。ハイネの胸の内で不埒な期待が高まっていく。だがココは自分の手でハイネの眼前に下肢を晒すという行為が受け入れ難いらしく、燃えるような羞恥と戦っているのか、なかなか裾は膝裏より上にあがってこない。
「………何をぐずぐずしている。早く引っ張り上げてみろ」
ココは求めに応じ、再び裾を捲りだす。幕のように重苦しい長套衣が持ち上げられ、今度はすんなりとした形の太腿が出てきた。痩せぎすではあるが、太腿の裏側は張りがあってそれなりに柔らかそうだ。……早くその先にある双丘が見たい。そう思うけれど、ココの股を隠している裾は膝裏と太腿の間で泳ぐばかりでそこから先が一向に見えてこない。
ココが恥じるからこそ見ようとするだけで、ハイネはこの子供の火傷痕にそこまで興味があるわけではなかった。だが恥ずかしい言いつけに逆らえずにいるココの姿を眺めてやることは、なかなか面白い遊びだった。
力づくでこの子供を裸に剥いてやることなど容易いし、躊躇いながらも最後にはココが自分の命に従い、尻を晒すことも分かりきっている。だからこそ見えそうで見えないあたりでモタモタされるとかすかな苛立ちを覚える反面、その先にある肌がちらりと見えたときの征服感で身の内になんともいえない熱が猛っていく。
かつて人であった頃、ハイネは数えきれないほどたくさんの美女と寝台の上での駆け引きを楽しんで来た。だがその女たちとこの少年とはまるで違う。
遊び慣れた美女たちは焦らす態度の裏側に、ハイネの気を引き煽ろうとする企みが透けて見えていた。ハイネに処女を捧げた貴族の生娘とて、少しのおそれを見せ恥らいながらもハイネを見る目の奥には情交への期待があった。
だがこの子供にはひたすら羞恥しかなく、まるで血を滲ませるほど強く噛めば堪え忍べるとでも思っているかのように唇をきつく噛み締めている。その恥ずかしくてたまらなそうにしているあまりに無垢な反応を見せられれば見せられるほど、このちいさな体を犯して穢し尽くしてやるときの興奮を思ってますます下肢の熱が昂ぶってくる。
「バローの子供。おまえは服すらまともに脱げぬ無能なのか?それともそんなに私の手で着ているものを引き裂いてほしいのか」
「………違います……ちゃんと、やれます」
「だったらこれ以上私を失望させるな。言葉通り、覚悟を見せてみろッ!!」
恫喝すると、いままでもたついていたのが嘘のような思い切りの良さで少年は腰まで一気に裾をたくし上げる。途端に現れる、つるりとしたそれ。手足の貧弱さとみすぼらしさからすると嘘のようになめらかな曲線。欠点だらけの体躯の唯一の美点だからこそ魅惑的に美しい少年の尻。
そう、これが見たかったのだ。その片側が火傷で爛れているのが痛々しいが、健康的な尻に似つかわしくない「虐げられた」といわんばかりの赤黒い焼き印の痕がなんとも淫靡でもある。
ハイネは何か得体の知れない重い熱が腹にせり上がって来るのを感じた。それが情欲だと自覚する前にハイネはココの尻に手を伸ばしていた。びくりと目の前の小さな肩が揺れる。
「ほう」
獣毛に覆われた手で触れてみると、視覚で感じた以上に弾力の心地の良い尻だ。手に楽しいその感触に、火傷のない片側を思い切って鷲掴みにしてみる。
「……や…っ………」
ココは息を飲み、ますます混乱を深めたように顔を振る。
「………ハイネ様………?」
背後にいるハイネを恐る恐る伺うココの目の中には、困惑と恐れ、そして圧倒的な羞恥が揺れている。天井から吊るされいたぶられていたときでさえどこか余裕を感じさせていたココが、今は自分自身も飲み込んでしまいそうな深い混乱と羞恥で身動きすらとれずにいる。
自分の体を他人に好き勝手に弄られ蹂躙されるということがどういうことなのか、まだ何も知らないのだろう。このちいさな身体に苦しみも羞恥も快楽も、ハイネがこれからすべて教えてやることが出来るのだ。
「ハイネ様、なにを………?」
たくしあげられたココの長套衣を獣の手で乱暴に掴むと、思い切り左右に引きちぎった。音を立てて衣服を引き裂くことも、またなんとも興奮することだった。
まだ人の姿だった頃は一夜を楽しむ相手にこんな野蛮なことはしなかったものだが、素肌を守っていたものをずたずたにして丸裸にして、おまえを守るものなどこの世に布切れほどのものすら存在しない、この体は私のものだと少年に示してやることは嗜虐心が満たされる。
ココは丸裸にされながらも、真意を探るようにじっと見つめ、この期に及んでまだ自分の身に何が及ぼうとしているのか想像つかないという風情でいる。
だから世の男は手垢のついてない生娘を珍重するものなのかと得心した。この世の中にどんなに恥ずかしくて淫らなことがあるのかを一から教え込むことは、男にとって至上の愉悦に違いない。
ハイネの腰元では、獣の雄が窮屈そうに下衣を押し上げていた。さて、どこからこの熱を食わせてやろうかと真っ先に見たのは、今はまだ尻の狭間に埋もれてみえない秘所。
さすがに長大な獣の男根を子供の後蕾にいきなり突き込んだりすれば間違いなく腹が破れてしまうだろう。こんな貧相な子供を大事にしてやるつもりはないが、一回きりで壊れてしまうような粗末な扱いをするつもりはない。ならば口淫でもさせてみるかと唇を見る。
だがココの唇は小ぶりで、顎も小さく華奢だ。無理に獣の雄を押し込めばすぐに顎や喉を潰してしまうだろう。
ならばまずはこのちいさな身体をたっぷり辱めてやろうと、ハイネは寝台の上に丸裸にしたココを突き飛ばした。
「まずはそこで獣の姿勢を取ってみろ。私の方に尻を向けてな」
「………あの、ハイネ様、いったい何をなさるおつもりですか………?」
「黙れ!おまえはただ私の言うことを聞いていればいい」
動揺しきって動けずにいるココの膝を立たせて無理矢理四つん這いにしてやると、まろやかな曲線の尻がまるでハイネを迎えるように突き出される。
「いい眺めだ。どうだ、私の前で犬のように這いつくばらされて恥ずかしいか?」
熱を帯びた獣の問いに、ココは「はい」と消え入りそうな小さな声で頷く。
「それは気の毒なことだ。おまえがこれから味わう羞恥はこんなものではないぞ」
声を弾ませるハイネは枕元に置いてあった鍵付きの化粧箱を引き寄せる。細工の美しいそれは宝石箱のようにも見えるが、中には遊戯が好きな貴族たちが愛好している快楽に耽るための秘密の道具が詰まっている。それも清らかな処女が見たら卒倒してしまいかねないほど淫靡でグロテスクな色や形、大きさをしたものがだ。
まだ性交の経験どころか知識も碌にないであろうココの目の前にその化粧箱を引き寄せると、ハイネは中身を見せつけるようにゆっくりと開いて囁いた。
「可愛いおまえに贈り物だ。今からおまえの体で遊んでやるが、どれで遊びたいかは自分で選ばせてやろう」
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