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俺だけの小説家3

秋陽の小説は、静也の予想通り面白いものばかりだった。 「最高だなお前」 「お前って言うな。 口が悪いよ静也は」  最新の小説を読み終わった静也の前に、温め直された緑茶が出される。秋陽のこういった世話焼きなところを静也は気に入っている。  秋陽に出会いに行ってから数ヵ月、静也は秋陽とほとんど親友同然の関係になっていた。  最初こそ怯えた仔猫のような秋陽だったが、半月もすれば静也の執拗さに慣れたらしく、次第に砕けた態度をとるようになった。  小説は繊細なのに、本人は基本的にさっぱりとした性格で予想外に豪快な面もある。  最初は小説だけの関係だったが、話してみると意外にも通じるところがあり、話が合うことがわかった。  なんとなく波長が合うから、一緒にいて楽だからと小説抜きで会うことも増えていき、二学期が終わるともう毎日と言っても過言ではないほど一緒に過ごす仲になった。 「静也、俺がこしあんもらっていい?」 「俺そもそもつぶ派」 「あー、そうだったね。 忘れてた」  秋陽は電子レンジからレトルトのおしるこを取り出す。予想以上に熱かったのか、一瞬手を引っ込めたのを静也は見逃さなかった。 「ほい、つぶあん」  袋に入ったままのおしること味噌汁椀を渡される。受け取ったおしるこは思ったよりは熱くなくて、先ほど驚いていた秋陽を思い出して思わず笑った。 「なんだよ?」 「……いや、別に」  不思議そうな顔が少し間抜けで良い。秋陽は学校ではできるだけ目立たないように意識しているらしく、言動一つとっても控えめだ。静也には秋陽の行動が理解できないけれど、静也と二人きりのときは素の秋陽だから構わない。むしろ、特別感があって良い。 「今日も親は帰ってこないのか?」 「ん? ああ、帰ってこないっぽいな。 冷蔵庫にトモさんの作った晩ご飯ある」  トモさんというのは、奉日本家の家事代行に来てくれている女性だ。秋陽の両親は秋陽が幼いころから仕事が忙しく、ずっとトモさんが家事をしているらしい。 「じゃあ泊まってもいいか?」 「いいけど……最近泊まってばっかで親にはなんも言われないの?」 「うち結構放任だから。 むしろ人と深く関わってるって喜んでるくらいだ」 「そ、そっか……」  対面に座る秋陽の顔が少し赤く染まって、目の端がきゅっと細くなる。アーモンドが鋭くなるみたいな、秋陽特有のこの笑い方が静也は好きだ。

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