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俺だけの小説家4

「……っ」  思わず手を伸ばして目尻を指先で撫でる。びくりと秋陽の肩が小さく跳ねて、秋陽の頬が赤く染まる。  無意識に静也は生唾を飲み込む。心拍数が徐々に速度を上げるのを遠くに感じながら、導かれるように指先が秋陽の輪郭をなぞる。 「っ、バカ……なんだよもう。 なんかついてる?」  おかしくなった空気を破るように明るく発された言葉に、静也は咄嗟に手を引っ込める。  自分でも一体なぜこんなことをしたのかわからずに、瞬きを繰り返す。  静也が意識したわけではなく、見えない糸で操られていたかのように秋陽に触れていた。 「ほ、ほら、おしるこ冷めるぞ」 「……ああ」  ぎこちない動作で、封だけ開けたおしるこを味噌汁椀に移し替えると、別で用意されていた餅を入れる。  一口食べてみると、おしるこは少し温くなっていた。 「熱っ……」 「いや、ぬるいだろ」  例え猫舌の秋陽にしても、ちょうど良い程度の温度になっているはずだ。雰囲気を変えるにしてもあまりに嘘が下手すぎて、思わず突っ込んでしまった。 「ほんとだって、火傷する……っ」  コップに入った水を呷る秋陽の眉間にはしわが寄っていて、嘘をついているようには見えない。しかし、静也の方は完全にぬるかった。 「……秋陽、これいっぺんに温めたら駄目なレンジなんじゃないか?」 「そんなレンジあるの?」 「あるだろ」  むしろ大体のレンジは一温めに対して一おしるこだと思っていた。 秋陽の方をひとくち貰うと確かに熱めだったが、静也にはちょうど良い温度だ。 「つぶあんでも構わないなら交換するか?」 「……いいの?」  静也は特にあんこに対してこだわりもないので、頷くと秋陽のものと交換する。さらさらと滑らかな餡が喉を滑り落ちていく。 「春のコンテストには応募するのか?」  冬休み前に、文芸部の部長である一つ上の出町満喜(でまちみき)が副部長である追出町鹿目(おいでまちかなめ)と春のコンテストについて話しているのを聞いた。  一応コンテストに応募すること自体は強制ではないらしいが、推奨はされているらしい。  もし秋陽がコンテストに応募するのであれば、静也は全面的に応援するつもりだ。 「いや、俺は応募しないでおく」 「なんでだ」  確かに秋陽はコンテストに興味を持つタイプではないけれど、以前出町に勧められたコンテストに応募していた。賞をもらっていたほどだから、今回も出町に勧められているのだとばかり思っていた。 「いや、なんていうか……言いにくいんだけど、藤井先輩が今回のには応援するみたいで、だから気が乗らないっていうか……」  前髪を引っ張る秋陽に、静也は「ああ」と納得する。  

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