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俺だけの小説家6

 それとなく促してみると、秋陽はうーんと唸りながら、上目遣いに前髪を見つめる。秋陽の顔立ちは決して幼くはないはずだ。身長も静也より5センチ低いだけでなのに、行動ひとつひとつに小動物的な可愛さがあるのはなぜだろうか。 「じゃあ、静也が切って」 「は? 俺が切るって……正気か?」  一体何を考えているのか、秋陽はたまにとんでもないことを言い出す。そこが秋陽の面白いところではあるが、今回に関しては賛同できない。  そもそも、静也は自分の髪すら自分で切ったことはないのだ。それなのに、誰かの髪を切るなどとんでもない。 「だって前髪だけ切りにいくなんてバカみたいだろ」 「じゃあついでに後ろも切ってもらえばいい」  確かに金銭面でも、端からみても前髪を切るだけに美容室に行くことに抵抗があるのはわかる。しかし、どう考えても髪を切るなど切ったことのない友人に頼むよりはましだろう。 「嫌だよ。 そもそも、美容室行くと話しかけられるから極力いきたくないし、前髪切れって言うなら静也が切ってくれればいいだろ」  秋陽の言葉に静也は一瞬固まる。確かに、前髪を切れと言ったのは静也だ。それなら静也が切れという秋陽の主張は間違っていない。 「切ったことないから失敗するだろ、多分」 「いいよ。 自分で切るよりは全然ましだと思うし、正直そこまでこだわりないし」  そこはこだわれよ、と言いたくなるのを堪える。もし自分が切ることになったらこだわられても期待に沿えない。 「どうなっても文句言うなよ」 「勿論」 今更切るのやめたらどうだ、とは言えずにため息を吐くと、秋陽はペン立てからハサミを取ってくる。食べ終わったおしるこをキッチンへと片付けて、秋陽にはビニール袋を持っていてもらう。 「……いいんだな?」 「うん」  最後の確認をとると、秋陽はあっさりと了承してしまう。 「ん。 じゃあ目、閉じろ」  素直に瞼が閉じられる。睫毛も長いのか、とぼんやり思いながら前髪を指先ですくう。少し癖のついたさらさらの髪の毛。  ハサミを持つ手に少し力を込めて、最初は少しだけ切ってみる。  ジョキリ、ジョキリ、ハサミが髪を断つ。人の髪を切ったことがないからなのか、それとも秋陽の髪を切っているからなのか、妙に心拍数が上がっていく。  

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