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俺だけの小説家8
「なんかお前機嫌悪くないか?」
「いえ、別に……」
気を遣ってくれているはずの出町の言葉にむっとして、静也は机に突っ伏したままそう答える。出町が困ったように眼鏡を押し上げる。
秋陽がいたらきっと部長に対する態度じゃないと怒られたのだろうが、今はその秋陽がいないので、誰も静也を叱責したりしない。
頬を赤らめた女子生徒に呼び出された秋陽を思い出して、静也はさらに苛立ちを募らせる。
――秋陽のこと、何も知らねぇくせに。
舌打ちする静也に、ほかの部員の肩がびくりと跳ねる。
「おい、てめぇ……態度がわりぃんだよ。 ただでさえ威圧感ある見た目してんだから少しはおとなしくしてろや」
「追出町、それは本当のことだけどお前も人のこと言えないからね……。 もうちょっと穏やかに注意して」
苦言を呈する追出町に、慌てたように出町が止めに入る。静也と同じく威圧感のある見た目の追出町は、見た目の通りに口が悪い。
とはいえ、今回は確実に自分が悪いのだと知っているので、静也には何の文句も言えない。
「いえ、俺の態度が悪いのは事実なんで。 すみません」
静也が素直に謝れば、追出町はフンッと鼻をならす。
四人がけの机の対面に出町が座ると、当然のように追出町がその隣に腰を下ろす。
「……で、何に対して苛ついてるの?」
「そんなん奉日本のことしかねーだろ」
静也が答える前に追出町が答えてしまう。反射的に違うと噛みつこうとしたが、誤魔化したところで相手が信じないことも、何の意味もなさないこともわかっている。
静也は小さく息を吐くと顔をあげて椅子に座り直す。文芸部の部室は廃部した陶芸部の部室を使用しているため、椅子に背もたれがない。
態度が悪いと言われた以上、肘をつくわけにもいかないので、仕方なくしっかり話を聞くことにした。
「呼び出されてたね、奉日本くん」
少し嬉しそうに笑う出町に、静也は「みたいですね」と素っ気なく返す。
あたふたと慌て、女子生徒につられたように頬を赤らめる秋陽の姿が脳裏にちらつく。その表情は初めてで、静也はたまらなく苛立った。
「今頃告白されてるだろうな」
しれっと言い放つ追出町をにらみつけそうになるのを静也は我慢した。そもそも、自分はなぜこんなにも苛立っているのだろうか。
「さあ、知りませんよ……」
静也が素っ気なく言い放つと、追出町はにやにやと笑った。その顔があまりにも腹立たしくて、静也は顔をしかめる。
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