また夢を見た。 風呂でうたた寝した時と同じ雰囲気の夢だった。 時代劇に出てくるような豪華な畳の部屋に、緊迫した声と怒号が溢れている。 金属がぶつかり合う高く響く音にれる音がそこかしこで聞こえる。 そんな騒音の中を俺は昨日の夢で見た鬼の男の手を引いて逃げていた。 只々、必死に逃げていた。 屋外に出ても、俺らを追いかけてくる人は絶えなかった。 路地に入ったり、影に身を潜めたりと追手を振り払うように逃げている。 しかし、何処かに目的地があるのか足取りに迷いはなかった。 ぱっと夢が暗転したかと思えば、場面が変わる。 逃げる前まで居た豪華な襖の部屋に彼と二人きりでいた。 ｢もし、奴らに見つかってしまったら迷わず俺を殺してほしい。｣ そう男に告げた。 お前だけならなんとか逃げられるように手配が出来るから、と。 俺が鬼の里に嫁いで来た時点でこうなるであろう事はなんとなく分かっていた。 だから、お前だけでも助かるように、俺が死んだ後のこととか信頼出来るやつに頼んである。 お前まで俺に巻き込みたくないんだ。 お願いだから俺の言うことを聞いてくれ。 鬼の男は数秒黙り込んでいたが、やがて首を縦に振った。 そこで夢から目が覚めた。 夢の内容が頭の中で繋がっていく。 夢の中の俺はあの豪華な襖があるような屋敷に住んでいるようだった。 住んでいた屋敷や衣服を見た時、少なからず富があった人だろうことは安易に想像が出来るほど豪華であった。 何故追われていて殺されたのか。 あの鬼の男は何者なのか。 深く考えようとすると記憶に靄がかかったようになり思い出すことは出来ない。 最初は何処かで見た時代物でファンタジーな漫画か何かを俺が追体験しているような夢だと思っていたが、この夢は自分の前世なのではないかとも考え始めた。 夢にしてはやけにリアルすぎた。 でもそう思い始めたら、事情を知らずに思い掛けず聞いてしまった他人の暗い生い立ちのような気まずさはすっと収まり、後に残ったのは肝心な事が全く思い出せないもやもやとした悲しさだけが胸に静かに溜まっていった。