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第三章・10

「あれっ? 雨だ」 「予報では、明日からのはずだったけどな」  雄翔は、スマホを手にした。  迎えの車を寄こすように、電話しようとしたのだ。  だが、都はしとしとと雨の降る中を、傘も無しに歩いてゆく。 「おい、都」 「何だか、雨に濡れていたい気分」  まるで、国語のテキストに載っていた小説だ。  口の端を上げると、雄翔も彼の隣に続いた。 「主人公の気持ちは?」 「雨で自分の過去を流したいんだ」  お金目当てに、身体を売った。  挙句に、二人の男性の気持ちを傷つけた。  一人は、あの男子生徒。  もう一人は、雄翔。 「大丈夫、雨で嫌なことはきれいに流れるさ」  握ってくれる大きな手が、温かい。  都は雄翔と一緒に、雨に濡れながら歩いた。  心の澱を流しながら、歩いた。

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