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第五章・2

「ああ、美味しかったなぁ。焼肉」 「ね、神谷さんって、兄ちゃんの何? 恋人?」  冷やかす弟に、都はデコピンを喰らわせた。 「そんなはず、ないじゃん。友達だよ、友達」  いや、恋人でも、友達ですらない。  彼は僕の、雇い主。  その事実が、毎日もらう1万円が、都をひどく苦しめるようになってきた。 「ヤバいよ、最近」  演技のはずだった。  お金のためだった、はずなのに。 「雄翔のこと……、好きになっちゃったみたい……」  ベッドに転んで、枕に顔を埋めた。  最初は、お金持ちのお坊ちゃんのお遊びだと思っていた。  本当の恋人が現れた時のための、レッスンだなんて。  一日1万円を、まるで駄菓子でも買うように渡して来るなんて。 「ホントに……、苦手だったんだから……」

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