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第六章・11
「結果として、都をひどく傷つけることになったな。ごめん」
実は、と雄翔はテーブルの上の指を組んだ。
「実は……、俺には許嫁がいるんだ。春に、知らされた。本当は中学生の頃から決まってたらしいんだけど」
「いいなずけ、って。婚約者?」
「うん。家同士が決めたことさ。俺の意思なんて関係なく、ね」
少し睫毛を伏せる雄翔が、都は可哀想になった。
だがしかし。
「それと、僕をニセの恋人にしたのと、どう関係が?」
「今のうちに、自由な恋愛ってものを味わってみたかったんだ。恋人って、どんな存在なのかを、知りたかった」
「そうだったのか……」
ぽろり、と都の目から涙がこぼれた。
最初から、実らない恋だって決まってたんだ。
決まってたから、雄翔は本当の恋人じゃない疑似恋人を求めたんだ。
「だのに……、僕ったら。雄翔みたいな立派な人相手に……、本気になって……」
ぽろぽろと、いくらでも涙があふれてきた。
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