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①転校生 ─迅─6

「ああん? 誰だお前」  連中の背後まで走って行って声を掛けると、雷を含めた全員が振り返ってくる。  俺を知らねぇっつー事は、この辺の奴らじゃない。 それなら遠慮なくシメさせてもらおう。  一人も五人も変わんねぇからどうって事はない。  首根っこを掴まれてキャンキャン吠えてる雷を見ながら、俺は首を回し、手首をぶらぶらっとさせて相手を殴る前に一回全身の力を抜く。  一発、もしくは二発でやっちまうためだ。  腰を入れて拳と腕を振るには、これが大事。  武道を習ってるわけじゃない俺の喧嘩のやり方は、経験だけですべて学んだ。  誰かに守られるなんて御免だから自分が強くならないと、とひたすら喧嘩に明け暮れた。 それはもう四年も前の事だけど。  おかげで面倒事に巻き込まれなくなったし、いざって時にこうして金髪チビを守ってやれる。 「は? なんで俺が名乗んなきゃいけねぇの。 てかさぁ……俺のお気に入りなんだよな、そいつ。 手離してくんない?」 「お気に入りぃ〜? 知るかよ、……ぐっ」  お飾りの鞄を床に投げ捨てて、先頭で睨みをくれながら近付いてきた男の襟首を掴んでとりあえず端にぶん投げる。  威勢ばっかいい奴は、殴る価値も無えくらい軟弱だ。 コイツに用は無え。  倒れ込んだ男の腹にダメ押しの蹴りを一発食らわせると、それだけで雷を取り囲んでいた連中が何歩も後退りした。  目標は、俺のお気に入りの口を塞いで、俺が一度も触った事のないキンキラキンな髪を引っ張り上げてる命知らずな不細工。  チビでも男なんだから、アイツはまた俺に「余計な事するな」ってキャンキャン吠えるんだろうが……。  とにかく、キモい手で雷に触ってる不細工には人生で一番イラッとした。  ───さぁて。 今度はお前が地面にねんねする番だ。 「だからさぁ、こいつは俺のお気に入りだっつってん、の!」 「な、なんだよお前……っ、ぐは……っ!?」 「……迅っっ」    雷と不細工を引き剥がし即座に左の顎目掛けて拳を打つと、顔を歪ませたヒドいツラでドサッと倒れ込み、呆気なく気を失った。  見事なくらい綺麗に吹っ飛んだ。 「迅! お前なんでここに……!」 「電話くらい出ろよ、バカ」  解放された雷が近寄ろうとしてきたが、俺の目的はまだ達成されてない。  投げ捨てた俺の鞄を拾いに行く雷と会話しながら、仲間二人が地面に転がった事でビビって逃げようとした取り巻き連中もすぐにとっ捕まえて成敗する。  時間にして約五分ってとこか。 いやもっと短いかもしんねぇ。  握り方にコツのいる拳が、若干痛い。 「電話〜〜? あ、ほんとだ。 厳つい名前が並んでる」 「雷にゃん。 首、見せてみろ」 「え? なんで……っ、うひゃっ」  俺からの不在着信を見てヘラヘラしている金髪の隙間から、男のくせに色気のあるうなじが見えた。  妙な顔で見上げてくるチビを掴まえて後ろ髪を退かし、そこを顕にする。 「……痣になってる。 ……コイツだっけ、お前の首掴んでたの」  まっしろな雷の首に痛々しい痣なんか付けやがって。  もう何発かぶん殴ってやりたいのに、地面に転がってる連中がみんな同じようなツラだから、人生で一番イラッとした男がどいつだったか忘れた。 「いや分かんねぇ……って、おい! トドメをさすな!」 「二度と俺のお気に入りに手出すな」 「……迅、もうそいつのびてるから聞こえてねぇよ?」  俺の足元に転がっていた男の胸ぐらを掴んで、最後に一発食らわせておく。  たとえ対象が違ってたとしても連帯責任だ。  制服の乱れを直して雷から鞄を受け取った俺は、ふと辺りを見回す。  ───マズイ。 ここコンビニの駐車場じゃん。  コンビニの中から店員やら客やらが恐る恐るこちらを窺っていて、通りすがりの人達も足を止めて俺達を見ている。  やっちまった。 久々に頭に血が上って、周りが見えてなかった。  無傷な俺と金髪チビのセット、コンクリの地面に転がったヤンキー五人組、これだけで警察案件だ。  通報でもされたら面倒だと、俺は雷に向かって「行くぞ」と指で呼ぶ。  珍しく俺の言うことを聞いてついてくる、おとなしい雷のうなじが気になった。  めちゃくちゃ赤くなってるけど、痛くねぇのか。  他に怪我は無ぇのか。  不細工に引っ張られてたせいで髪ボサボサになってっけど、俺が触ったら怒るよな。  ……この時点で、俺はだいぶ俺らしさを失っていた。  あんまりおとなしいから、ちゃんと俺の後ろを付いて来てんのかって何回か振り返る度に、何か言いたげな目とぶつかる。  そのわりには、何も話し掛けてこねぇし。  そんな黙られると調子狂うんだけど。 「……おい、迅……っ。 その、……あ、ありがと」  利用者の少ない駅前に着いたと同時に、雷が俺の前に回り込んできた。 「は? 何が」 「助けてくれたんだろ? 人数多かったから俺……ちょっとビビってた。 ……助かった」 「雷にゃんが素直だと気持ち悪りぃな」 「〜〜ッッ! お前ほんと性格悪い!」  そうそう、これこれ。  お前が黙ってんのなんて似合わねぇよ。  キッと睨み付けるように俺を見上げて、毛を逆立てた猫みたいに牙剥いてりゃいいんだ。 「あ、……迅、それ笑ってる?」 「は? 笑ってねぇよ。 ぶん殴るぞ」 「なんでだよ!!」  あーうるせぇ。  マジでうるせぇ。  その調子でメッセージの返事も秒で返してこいっつーの。  次シカトしやがったら、そのキンキラキンな髪を今以上にボサボサにしてやるからな。

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