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③無防備 ─迅─10※

 カッとして、愛称じゃなく呼び捨てた。  迷わず「迅とじゃなきゃヤダ」って言うべきところを、雷は翼との大会開催を匂わせやがったからだ。  よりによって相手は、俺の壁と化した乳首にトラウマを植え付たあげく、耳が弱えって事を一番最初に知って開発しようとした悪友。  頭に血が上った、どころの騒ぎじゃねぇ。 「 "恥ずか死ぬ" って言ってたヤツの発言とは思えねぇな。 気持ちいい事には逆らえねぇっつー事なんだな? 童貞男子は」 「なに……っ? なんで迅、また激おこなんだ!? あっ、あっ……♡ 迅……ッッ」  イラついてどうしようもなかった俺は、二つのチン○を握ったまま雷をベッドに押し倒していた。  今まではカレカノ体位で雷のだけをシコってたから、こんないかにもな格好は初めてだ。  目線の先、黒目が泳いでいる。  俺の地雷を踏んだ罰だ。  せいぜい戸惑いやがれ。 「迅……っ、この態勢はその……なんか、……結構えちえちじゃね……ッ?」  そんな台詞が出てくるって事は、ちょっとは狼狽えてんのか。  いつもよりほっぺた赤え。 目もうるうるさせて涙目になって、何が怖えのか俺のシャツをでろんでろんになるぐらい掴んでやがる。  これだけ分かりやすくお気に入り認定してやってんのに、俺以外のチン○を平気で握りそうなコイツにかなり頭にきた。  今もまだ萎えちまいそうなくらいムカついてる。  気持ち良ければ誰が相手でもいいのかよ。  シコり合いを教え込んだ俺が言えた義理じゃねぇけど、普通のダチはここまでしねぇよ。 「俺の監視下にあるうちは誰とも大会開くんじゃねぇぞ。 早漏なのバレたくねぇだろ」 「開催予定なんて、……ン、っ、無ぇよ!」 「お前のそんな顔、誰にも見せない方がいい」 「嫌味なヤツだな……! 自分がちょっとイケメンだからって、俺の顔をディスるんじゃねぇ!」 「………………」  威勢がいいのは結構だが、ここまで言っても分かんねぇのかコイツ。  何を勘違いしてんのか知らねぇが、お前の声とトロ顔は並大抵のエロさじゃねぇんだぞ。  喘がせたら最後、見事にバカが霞んで欲求だけが残る。  押し倒したはいいがここからどうするとか何も考えてなかった、経験豊富でヤリチンな俺の方が戸惑ってるってかなり恥さらしだ。  ま、えちえちな態勢にハラハラしてるコイツには、気付かれてないだろうけどな。 「迅……っ、あの……、あのっ、なんか、なんかこれ、変な気分になるなッ?」 「どういう意味」  雷の顔の横に左肘をついて、うるうるの目を覗き込むと小せえ体がビクッと反応した。  ふと、二つ目の壁に釘付けになる。  よく見るとさっきコイツが食ってたチョコの塊アイスが、壁の端っこに付いていた。  俺は甘いもんがめちゃめちゃ苦手なのに、それがやたらと美味そうに見えた。 「いやだってさ、ほら、っ……このシチュはかなりえちえちだ!」 「……舐めてぇ……」 「はっ!? ナニを!?」 「お前さっきのアイス好きなんだ?」 「ア、アイス!? それ今聞くことかッ!?」  確かに。 コイツがまともな事言ったの初めて聞いたかも。  俺は、話を逸らしたつもりはなかった。  端っこにチョコ付けた、ガキみてぇなコイツの唇から目が離せない。  不覚にも壁へと迫りそうになって、完全に無意識だった。 「どうなんだ」 「好きだよ! ピーノはアイス界の王様だ!」 「……あ、そう」 「聞いといてその反応!?」 「……うるせぇ。 黙ってろ」    こんな体位で、明らかに俺より弱え相手を組み敷いてるこの状況に、今まで感じた事がない興奮を覚えていた。  キンキラキンな髪を左手で梳くと、黒目をウロウロさせて黙り込む。  コイツは、ダチにこんな事されておかしいとは思わねぇのか。  さっきは瞬間的に頭に血が上った俺だが、冷静に考えると雷は、今まで俺とのヌきっこ大会を一回も嫌がってなかった。  気持ちいい事には逆らえない童貞男子の性なのか? もしくは、相手が俺だから?  誰にでも触らせてオッケーなら、翼が開発しようとしたコイツの乳首のトラウマは何なんだ? 「……お前さ、」 「なんだよっ」 「アイスくらいきれいに食えよ」 「はっ? え、ちょっ……ん!?」  腹が立つくらい美味そうで、我慢できなかった。  気付けば、反抗的に尖らせた雷の唇の端を舐めていた。 「う、ッ……! 迅……っ?」 「何?」 「いま、……何した?」 「別に何も」  いや、目まんまるにして驚いてるとこ悪いけど、俺も自分の行動が信じらんねぇんだから深くは聞かないでくれ。  二つ目の壁であるキスをしなかっただけ、まだマシだろ。  あと数ミリずれてたら、俺と雷は完璧にダチで居られなくなってた。  ……もう遅いだろって? うるせぇ。 「雷にゃん、そろそろこっちに集中してもらおうか」 「えっ、お前がそれ言う!? 怒ってんのかと思ったらいきなりアイス好きかって聞いてきて、い、い、い、今なんて俺の口、ペロッて……ッッ」 「お前ほんとよく喋るなー雷にゃん」 「うるせぇ! 俺のドキドキを返せ!」 「………………」  ……ドキドキしてたのか。  何それ。 ……何だよ。 そんなにバカ正直になるなよ。  無防備が突き抜けてるぞ。  雷に感化されたと思いたくない俺は、誤魔化すように右手を素早く上下に動かして啼かせるだけ啼かせた。  ピクピクっと雷のチン○が射精の合図を出したら、扱くのをやめて焦らす。  そんなことを繰り返して、いつも以上に射精を粘った俺の心の声は聞かないフリをした。 「あっ、あっ、迅! そんな……ッ♡ そんな激しくぐちゅぐちゅしたら熱いって……ヤケドする……っ」 「何我慢してんだよ。 イきたいならイけば」 「うぅ……! 囁くな! 迅のイケボーッッ」 「お前なぁ……」 「迅……ッ、出る、出るっうぅ……ッッ」 「────っ」  雷の声に、ケツが震えた。  この俺様が目を開けてらんねぇくらい、マジで最高の射精感だった。  イったあとも、余韻がすげぇ。  爪先が攣るかと思った。 「……っ、はぁっ……きもちかったぁ……」 「……もう一回」 「えっ!?」 「二回戦開始」 「復活早えな! てかそのイケボやめろッッ」 「俺の声ってイケボ?」 「かなり!!」 「……フッ……」  ……俺は甘いもんは嫌いだ。  でも雷にゃんの声と、トロ顔と、バカみてぇに甘っちょろい性格はわりと好き。  お前はどう思ってるのか知らねぇけど。

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