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④監視が強化されたんですけど ─雷─
楽しい楽しい夏休みはあっという間だった。
新学期が始まった初日の今日は、始業式だけ出ればいい。
眠気を誘う授業が無い、しかもお昼から休み! なんてハッピーなデーなんだ!
朝からこうしてルンルンだった単純な俺は、始業式終わりに集まった恒例の秘密基地でもっとテンションが上がった。
「すげぇー!! 美味そうッッ♡ これも、これも、なんかカッコイイ!!」
やけに大きくて派手な紙袋持って来てんなぁ、と、朝から翼の机の上にデンッと置かれたそれが気になってしょうがなかった。
夏休みの間中、ずっと海外に居たお金持ちの翼だ。
カラフルで派手派手な紙袋を持って歩く、向こうの趣味が移っちまったんなら口出しできねぇし……っていうのはとんでもない俺の勘違いで、中身はぜんぶ俺への海外土産だった。
丸い缶に入ったチョコレートがどっさりと、海の柄のタペストリー(名前知らなかった)、そしてやたらと目立つ金色の何か(たぶんアクセサリー)がいっぱい。
海外なんて行った事が無ぇから、取り出した缶のラベルには何語か分かんねぇカッコイイ文字が並んでてめちゃめちゃ興奮した。
なかなか座り心地のいい迅の太ももの上で紙袋をガサゴソして、結局チョコの缶を手に取った俺は花より団子。
「だろ? 雷にゃんは喜んでくれると思ったー」
「ありがとなぁ、翼! でもこんなにいっぱい貰っていいのか?」
「雷にゃんのために買ってきたんだからいーの。 迅はこういうの全ッ然喜ばねぇからな」
「お前とは趣味が合わねぇ」
「ほら見ろ。 雷にゃん、彼がかの有名なツンデレのツン君らしいっすよ」
「ふむふむ」
「変なあだ名作んのやめろよ」
日に焼けてチャラ度が増した翼との会話、久しぶりだなぁ。
迅にこんな口を叩くのはこの辺じゃ翼か俺くらいしか居ねぇらしいし、スカした迅様を揶揄う仲間が戻ってきて嬉しいぜっ。
「いや待て待て。 翼、迅はツンをもひとつ足したツンツン君では?」
「は? また俺に変なあだ名付ける気か、雷にゃん」
「へへへッ」
「……笑って誤魔化すな」
「誤魔化されてるくせにぃぃ」
「てめぇ……」
不機嫌っぽい迅の方を無理矢理向かされても、頭グイッに手加減を感じて痛くなかった。
夏休みはほぼ毎日迅と居たけど、そういえばツンツン君とはあんまり会ってない気がする。
ヤリチンなヤリ迅でもなかったし。
キャラが薄まっちまうよ? って、……般若は健在だった!
「うわ! ごめんって! すぐそうやって般若面するー!」
「お前が生意気だからだろ。 そのお菓子全部取り上げるぞ」
「ダメー!! これは俺が翼から貰ったお土産なんだぞ! えーっと、……翼が行ってた国どこだったっけ? プニプニ?」
「ぶふっ……」
「おい、迅! 笑ってるけど国のなまえ言えんのか!?」
「プエルトリコ、だろ」
「プエ、プエッ? プエプエッ?」
なんだっ? 翼、そんな難しいなまえの国に行ってたのか!
紙袋ゴソゴソしてて翼の話聞いてなかったからほぼ初耳だ。
迅から聞いても言える気がしねぇな。
「雷にゃん、口あーんしてみろ」
「ん? あーん」
「べーってして」
「べー」
まったく……俺はガキじゃねぇって何回言わせんだ。 そして何をさせんだ。
言われた通りにあーんしてべーっとした俺を、迅はヒョイと抱き上げてクルッと回転させた。
迅の方を向いて座ると体がフラついて、俺より二十七センチもデカいコイツにしがみつくしかないって情けねぇ……。
「ベロが短いんだな、お前。 そういや、たまに喋ってんの聞き取れねぇ時あるわ。 大声で紛れてるけど」
「はぁ!? おまっ、いま堂々とディスったな!? 表出ろ! タイマン勝負だ!!」
「あ〜、あの華麗な脛蹴り見せてくれんの? 威力が持続しねぇやつな?」
「〜〜〜〜ッッ!? こんのぉぉッ、減らず口のプエプエ野郎〜〜!!」
「プエプエはお前が言ったんだぞ」
「ンの野郎ーっっ!」
「ベロが短いって言っただけじゃん。 そんな怒りっぽいと血管ブチ切れてぽっくり逝っちまうぞ。 な? どうどう」
やっぱコイツは性悪ヤリチン野郎だ!!
と、血管ブチ切れ寸前で怒り狂ってた俺の顎を、慣れた手付きでこしょこしょする迅。
コレをされるとあっという間におとなしくなる俺。 猫だったらグルグル喉を鳴らして喜んでる、まさにそんな状態。
迅に勝てるわけないのに、すぐタイマンを持ち掛ける俺ってばヤンチャで喧嘩っ早いって自分でも分かってる。
まるっきり相手にされてねぇし、こんな事されたらさらにムカムカしてもおかしくねぇんだろうけど……。
「ふぃぃ〜〜♡」
先週くらいから始まったコレ、意外と気持ちいいんだ。
俺が猫好きだって知ってる迅が、俺をなだめるために考案したんだろうけど、効果はかなり。
やめようとした手首を掴んで、「もうちょっとこしょこしょしろ」って無言で訴えると、迅も無言で継続してくれる。
うん、これは気持ちいい上に気分がいいぞ。
「おいお前ら……俺がバカンス行ってる間に仲が急接近してない? 急接近ってかもうイチャついてるようにしか見えねぇんだけど」
背後に立つ翼の声に振り向いて見上げると、お手本みたいな苦笑いをしていた。
急接近? イチャついてる?
え? どういうこと?
さすがの迅様も首傾げちゃってるよ。
「誰と誰がイチャついてるって?」
「誰と誰がイチャついてんだ?」
「……お前ら以外に居る?」
「もしかして、迅と俺ぇッ?」
「翼、時差ボケで幻覚見てんじゃね?」
「え……君たち、自覚無えの?」
「字画ぅぅ?? ふふんっ、俺の名前は十三画だ!」
「俺は六画」
「その字画じゃねぇよ……迅までどうした……」
俺バカだけど、自分の名前はめちゃめちゃ丁寧に書くし綺麗だ。
書き順を見ながら何回も何回も書いて練習して、途中で気付いたんだよ。
「雷」は十三画だって事に!
すんごいドヤ顔して言ったのに、ノッてくれたはずの迅はニヤけてて、翼は眉間がおっかねぇ。
あれ……また俺、変なこと言ったのかな。
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