40 / 213

④監視が強化されたんですけど ─雷─9

 ふーん、とあんまり納得いってない感じで弾みをつけて机に座った翼が、俺の怪我した辺りを指差した。 「雷にゃん、ここ怪我したらしいじゃん。 番犬は一体何してたんだか」 「その事か。 何してたって抜い……」 「あ゙ぁぁ〜〜あぁ〜〜!! 今日も空は青いなぁ!! 見てみろ翼! この晴れ渡る青空を!!」 「……もう夕焼け小やけだぞ〜、雷にゃん」 「ぐぬぅ……!」  迅のヤツ!! 俺の誤魔化しに救われといてクスクス笑ってんじゃねぇ!  余計なこと言うなって俺には睨みを効かせてくるくせに、自分が暴露しそうになってんじゃん!!  翼の事だから、「直前まで雷にゃんと居たのに抜いてた?何で?」になるだろ、どうせ!  俺のヘタな説明で、殴られる前は迅の家に居たって言っちまってて、しかも迅が俺を束バッキーしてるのみんな大体知ってるし!  迅の家で何してたのか、なんて、それこそ "余計なこと" だろッ。 「まぁ……雷にゃんが怪我したの、俺のせいだってのは認める」 「えっ!?」  俺にボッキーを与えてくれながら、そんな事を呟く迅。  そもそも俺が恨み買ってただけなのに、迅はまだ自分のせいだと思ってたのか。 「なんでだよ、そんな事ねぇよ! だって迅は助けてくれたじゃん! 鉄パイプなんて姑息な物使わなくても、バッキバキにぶん殴ってアイツら倒して……見とれちまったんだぞ、俺」 「へぇ〜雷にゃん、迅に見惚れてたの」 「あぁ、マジで迅のパンチは何回見てもすんげぇもん! あんなの俺が食らったらおしっこちびりながら気絶するぜ! 味方で良かったぁって思ってる!」 「そんな事を大声で胸張って言うな。 お前にプライドは無えのか」 「迅にだけな!」 「………………」 「………………」  これは胸張って言えるぞ。  迅は強え。  スカしたヤリチンだろうが、怒りの沸点が分かんねぇ気難しい末っ子クンだろうが、強えもんは強えから。  そうかと思えば二学期始まっても毎日欠かさず俺におやつ与えてくれる、優しくてふてぶてしい忠犬でもある。  コイツがまさか、この辺一体のヤンキー連中から崇められてるなんて未だに信じらんねぇけど、街に出たらそれはすぐに分かる。  夏休みの間も、行く先々で迅に頭を下げてる他校のヤンキー達を何回も見た。  でも迅は知らん顔してて、「返事くらいしてやれよ俺様迅様め」と思ったけど、そこもまたかっこよかったんだよな。  その迅様はいま、俺の口にお菓子を運ぶ係。   それも、俺が「しろ」って言ったわけじゃねぇ。 迅様がススんでやってくれてる。  なんて気分がいいんだ。 「ポリポリ……うまうま♡ 迅、二本一気にちょうだい」 「ん」 「贅沢食べだ〜。 ポリポリ……うまうま♡」 「フッ……美味い? そろそろコンビニで肉まんって手もあるぞ」 「あぁッ、それいい!! 肉まん食べたい!」 「肉まん、ピザまん、あんまん、どれが好き?」 「ん〜〜そうだなぁ。 ポリポリ……。 どれも同じくらい好きー」 「順位つけるなら?」  えぇ〜〜その三つで順位つけるなら、かぁ……。  俺は頭ン中で考えた。  味を思い出して、試験問題より真剣に考えた。  そして導き出した。  迅を振り返って、手のひらをグーにして人差し指、中指、薬指の順番に出す。 「一位ピザまん、二位あんまん、三位肉まん! ほんとは同率一位でもいいくらいだけどな!」 「え、お前ピザまん好きなの? て事はピザ好き?」 「あぁ! 俺な、宅配ピザのトッピングのチーズを倍にするの、夢なんだぁ♡」 「んなもん今日にでも叶えてやる。 帰りにウチ寄れ」 「えっ!? そんなッ……そんな贅沢したら俺明日死んじまうよ!!」 「そのくらいで死なねぇよ」 「えぇ〜♡ えぇ〜♡ 死なねぇかもしんないけど夢の倍チーズなんて俺太っちまうぅぅ♡」 「お前はもっと肉付けた方がいいと思うぞ。 薄いもんな、体」 「えぇ〜? あ、……迅……っ♡」  マジかよ〜ッ!?と、夢の倍チーズに足をバタバタさせて喜んでると、迅の足の上から落ちそうになって腰を支えられる。  そのついでにお腹をポンポン撫で撫でされて、うっかり声が出ちまった。 「……お前らもうヤッてんだろ」 「ヤッてねぇ」 「ヤッねぇよ!! ……って、何を?」  てか、ごめんエロピアス翼……!  こんなに近くに居んのに存在忘れてた!  すんげぇ長い溜め息を吐いた翼は、俺をチラッと見たあと迅に話し掛けた。 「雷にゃんの喘ぎ方が全然違うじゃん。 迅もさぁ……冷血で他人にまっっったく興味無えからこそのリア充ヤリチン男だったのに。 ただの甘々カレシに成り下がってんぞ」 「いやそこは成り上がってるって言えよ」  ……うんうん、確かに。 ここ何ヶ月かの迅は、忠犬であり甘々カレシみたいでもある。  ちょっと他人には言えねぇようなコトをしちまってはいるけど、俺たちはダチ同士だから付き合ってるわけじゃねぇ。  それなのに、やっぱ翼にもそう見えてんのかな。 「……俺ら、翼から見てもカレカノっぽい?」 「俺から見てもってどういう事?」 「んーん。 俺も、俺らカレカノっぽいなぁって思ってただけ。 迅めちゃめちゃ尽くす束バッキータイプなのに、なんで彼女出来ても続かねぇのかなぁ。 不思議〜〜。 あ、実はスゴいドン引きな性癖とかあんのかもな? ……ププッ」  俺はつい、今までの迅が凄まじく女子が引くような性癖を引っさげてベッドにいるところを想像しちまった。  だってそれくらいしか考えらんねぇじゃん?  迅は彼ピッピにするには満点の男なのに。  かなり束バッキーはキツいけど、俺もいつの間にか慣れちゃったくらいだし。  こういうの女子は喜ぶんじゃねぇの?って前からずっと思ってた。  モデル顔イケメンでデカチンで、発言は俺様迅様だけどすんごい甘やかしてくれるし、ここぞって時は優しい。  な、やっぱとてつもない性癖隠してんだぜ、迅のヤツ。 「──迅、……先が長そうだな」 「だろ。 覚悟してたけどコイツの本音聞いて青褪めてるわ」 「…………??」  翼が迅に苦笑いしてる。  迅も、翼を見て変な顔をした。  俺は……お菓子をもぐもぐ。  まーた二人で俺には分かんねぇ話してるぅってふて腐れながら。  ポリポリ、もぐもぐ……。

ともだちにシェアしよう!