52 / 213

⑥判明したんですけど ─雷─

 待望の露天風呂は熱湯だった。  しかも、こんな森に囲まれたお宿で深夜に浸かるもんじゃねぇ。 誰かが見てるような気がして全然堪能出来なかった。  雰囲気にのまれた迅からカノジョ気分を味わわされて、AVみたいに体洗われて、ヘトヘトなとこに熱湯だろ?  水飲む瞬間までちょっとのぼせてた。  ちなみに自販機には迅が行ってくれた。  なぜって? ……浴衣が俺サイズじゃねぇからだっ。 「ンンッ……♡ んっ♡ んっ♡ むぅっ♡」 「キスで喘ぐヤツ見たことねぇ」  そう言いながら、余裕綽々で俺のベロを吸う迅。  どうやってもうまく着られない浴衣をはだけさせて、布団の上に座った俺に突然襲い掛かってきた迅は、完全にシチュエーションを楽しもうとしてんだ。 「ふぅっ……、ンッ……♡ ン〜ッ」 「可愛い」 「……ッッ、んむっ、ンンッ、ん……ッ」 「もう勃ってるぞ」  いい感じの和室の襖を開いたそこに、二組の布団がくっついて敷かれていた。  迅が水を買ってきてくれてる間、俺は布団のちょうど真ん中に大の字になって寝転んでたんだけど。  畳の匂いとか、お宿の独特な匂いとか、俺の家でも迅の家でもないここが異空間みたいだなぁ、って。  昔懐かしい紐スイッチの電気を見て、のぼせた体を冷ましてたんだよ。  それなのに迅の野郎、「大丈夫か?」って心配もそこそこにキス魔全開。  完璧な若旦那風になった迅の浴衣を掴んで、大きく開けさせられた口の中で二つのベロがクチュクチュ交わっている。 「んーッ! んっ、んっ♡ ……んむーっ!」 「苦しい? やめる?」 「んっ! んっ!」  ちゅっ、ちゅっ、とベロを入れてきながら、迅はイケボまで全開だった。  やめてほしいに決まってんじゃんッ。  もう何分キスしてると思ってんだ!  押し倒されたカノジョ状態の俺は、唇をはむはむする迅にいっぱい頷いてストップをかけた。  聞かれて、答えたんだから、やめてくれると思うじゃん?  ところが迅は、俺の口の中でベロを巧みに使って唾液をクチュクチュさせつつ、ニヤッと笑った。 「フッ……やめねぇよ」 「んーーッッ!」  最悪……ッッ、また騙された!!  至近距離過ぎて笑ったとこは見えなかったけど、確実に、合わさった唇がニンマリしたのだけは分かった。  俺の口の中から、迅のベロが出ていかない。  時々太ももを撫でられて喘いだら、そのたびにクスッと笑われて辱めを受ける。  さすがにそろそろ苦しい。  迅の肩をバシバシ叩いた。  ヤリチンはこういう駆け引きまで上手くて、シチュエーションに乗っかるとさらに拍車がかかるんだ。  風呂で全裸になった瞬間から始まった、この甘々カレカノシチュエーション。  いわくつきのお宿でも関係ナシに、大会を予感させる前戯みたいな濃厚なキスを仕掛けてきた迅は、ヤリチン伝説を背負って俺に襲い掛かっている。 「……ぷはっ……! て、てめぇ……ッ、ねちっこいって、言ってんだろ!!」 「たった五分でねちっこい?」 「五分って意外と長えんだぞ!? ヤリ迅の上級テクに付き合わせるな!」  口のまわりがビチョビチョだ!  どっちのものかも分からないそれを拭くために、枕元の固定電話の横にあったティッシュ(固くてツルツルした箱に入ってる!贅沢!)を取るために、ほふく前進で迅から逃れた。  俺がビチョビチョだって事は迅もそうなんだろうから、二枚くらい適当に抜き取って渡す。  息が上がってしょうがないってのに、迅は少しも息切れしてねぇ。  経験値をひけらかすように、俺に向かってフッと笑う余裕まで見せてる。 「その上級テクであんあん喘いでる雷にゃんは優秀だ」 「え……俺、優秀なの?」 「優等生レベルでな」 「マジでぇ!? 俺優等生なのか!? へへッ、いやぁ、照れるなぁっ」 「照れてんの? 可愛い」 「かッ……!? 迅、マジで今日どうしたんだよ……?」  俺に〝可愛い〟を連呼する迅は、キモい。  だって俺可愛くねぇもん。 暫定〝かっこいい〟男の子だもん。  ヤリ迅のキスについていけてる俺は優等生だって褒められて、ヘラヘラしてただけで言ったよな、今。  ───〝可愛い〟とは。 「雷にゃん、触っていい?」 「へっ? ど、どこを……っ? うわッ」  ティッシュをぐしゃっと握ってた腕を、あり得ねぇ力でグイッと引かれて迅の胸によろけた。  ちゃんと着れてなかった浴衣が肩からずり落ちて、花魁さんになった俺のタトゥーを凝視される。  なんだよ、……痛々しいから触っていいかって? お前が付けたんだろ、迅。 「どこって……ここ」 「えっ!? や、ん……ッ♡」 「良さそうだな」  舌なめずりした迅が狙ってたのは、タトゥーじゃなかった!  左のちくびを指先でちょんっと触られて、俺は目を見開いた。  それからすぐに、浴衣で前を隠して部屋の隅っこに逃げる。  「だめ! だめだめだめだめ! だめ!!」 「ンな全力で逃げなくても」  いや逃げるだろ!! はぁ?って首傾げてる意味が分からねぇ!  俺は散々、言ってきた。  ちくびだけはムリ。 だめ。  翼に触られそうになった時も、全力で逃げた。 こればっかりは、男として守らなきゃなんねぇ気がするからだ。  しかも今、ヤリ迅にはもってこいなシチュエーション。  このままちくびを許可してしまったら、俺は間違いなく──代わりにされる。 「だって迅……ッ、俺のちくび触る気だろ!? さ、さっ、さっ、触るだけじゃなくてほら、つっ、摘んだり? さっきみたいにコリコリッてすんだろ!?」 「……したい」 「ほらぁぁ! それはだめ! さっきのコリコリは偶然が招いた出来事! ノーカン!」 「ふーん……雷にゃんが嫌がるならもう触んねぇよ。 でも何でダメなのか、理由を言え」 「り、理由ぅ??」  あぁ、と頷く迅は、かなり不愉快そう。  お尻で少しずつ逃げる俺を、膝を立てて追ってくる迅はまさに、腹を空かせた黒豹だ。  けどな、お前が狙ってんのはメスじゃなくてオスなんだぞ。  生粋のヤリチンリア充なのに、飢えすぎてて判断出来てねぇんだ、きっと。 「それはほら、……俺が女じゃない、から……」

ともだちにシェアしよう!