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⑨恋慕 ─迅─
メッセの未読スルー、着信無視、平日は許すが土日にこれはあり得ねぇ。
〝会って話したい事ある〟という俺の同じ文章が計八つも並んでんのに、一つも既読がつかねぇなんてあるか。
土日、なぜだか知らねぇけど雷がモールに来てるのは把握済み。
この俺様が位置情報アプリ一つで満足するはずねぇだろ。
宿に泊まった日にもう一つインストールして、そっちは束バッキー野郎に見つかんなかったのかアンスコされなかった。
とはいえ、モールの住所までは表示されてるけどその中のどこに雷が居るか、正確な位置まではさすがに分かんねぇ。
俺も稀に見る忙しさで、普段よりスマホを触れなかったのが痛かった。
下の階にオープンした束バッキー野郎のアクセショップ〝Au reVoir〟は、どうやら雑誌に特集組まれるくらいの有名店らしく、開店と同時にモール全体の客足を伸ばしやがった。
おかげで俺のバイト先も今週末は売り上げウハウハ。
店長はめちゃめちゃ機嫌いいけど、雷が気になってしょうがねぇ俺のモチベはだだ下がり。
なんで雷がモールに来てんのか、来てんならなんで俺に声掛けてこねぇのか、いつ見ても未読のまま夜もシカトし続けてる理由は何なのか、聞きてぇ事も言いてぇ事もわんさかあんだぞ。
生意気なチビだが、俺にとっちゃ今や可愛いだけの存在。
時間が許すならずっと膝の上に乗せときたいのに、肝心なセリフを言い逃してる情けねぇ俺。
今すぐ家まで行って拉致ってやろうか。
いやでも、もう夜の十時だ。 学生の身分じゃそう簡単な話でも無え。
さっさと言やいいのに、〝噛みそうだから待て〟〝ムードとシチュエーション考えてるから〟とかどんなダセェ理由だよ。
あんなの自分でもマジでキモいと思った。
このグダグダは草食系でも何でもねぇよ。
「──お、藤堂お疲れー! 今日も忙しかったなー」
裏口目前、後ろから声かけられて振り向くと、店長が疲労なんか微塵も感じさせねぇツラしてニヤニヤしていた。
本社から圧かけられてる身じゃ、この土日の売り上げには笑いが止まんねぇんだろ。
てか、店長が背後に迫ってたことにも気付かねぇとは。
雷の事で頭がいっぱいってか、俺。
「……お疲れっす。 一週残して今月のノルマ達成できて良かったっすね」
「だなー! Au reVoir様々だぜ!」
「そっすね」
「あの店、店長も美人でバイトの子もみんなギャル風でイイ女だって噂だ」
「へぇ……」
「藤堂はギャル好きだからいんじゃね? ちょっと行って引っかけてくれよ」
「嫌っすよ」
「気に入らねぇと思ったら俺らに流してくれりゃいいし」
「俺ナンパした事ないんでムリっす」
「はぁ!? お前それ嫌味か? 嫌味なのか?」
「ンなわけないっしょ」
アホくさ。 女引っ掛けてぇならテメェで行けよ。
しかも束バッキー野郎の店の女なんか、俺が行った瞬間に店長が目光らせるに決まってんじゃん。
ま、行かねぇからいんだけど。
そんな事より雷だ。
九つ目のメッセを送ってもまだ既読が付かねぇ。
〝極める〟とか何とか妙な事言ってたし、早いとことっ捕まえとかねぇとヤバそうなのに。
クソッ……俺がクズ過ぎて、バカ素直な雷を迷走させちまってるとんでもねぇイヤな胸騒ぎがする。
店長の前で、スマホに向かって舌打ちしそうになった。
俺の腹は決まってる。 だから明日雷を迎えに行くまでの数時間さえ惜しい。
連絡がつかねぇから心配で来たって言えば、雷の親なら分かってくれそうだし。
……行ってみるか。
「店長〜! 隠し撮りゲットしてきましたよ〜!」
位置情報アプリを開こうとした俺の指が止まった。
最近入った新人バイト(まだ名前覚えてねぇ)がスマホ片手に走ってきて、子分よろしく店長に尻尾降っている。
隠し撮りって。 早速店長にパシリに使われてんのか。
「でかした! ……どれどれ……」
誰を盗撮したのか知らねぇが、軽やかに罪を犯すんじゃねぇよ。
親分と子分はご機嫌にスマホを凝視した。
いやこれは釘付けと言っていい。
……俺退散していいか。
お前らみてぇに、低俗な男の遊びに付き合ってるヒマ無えんだよ。
「おいおい……これマジ? 全員Sランクじゃん」
「特にこの子なんて店長好みじゃないっすか? 可愛い系の細身ギャル」
「あぁ、顔はガチタイプ。 俺小せえ子が好きなんだけど身長は?」
「写真じゃそこまでは分かんないっすよ! バレないように遠くから撮りましたし!」
「それもそうか。 藤堂、見てみろよ。 噂通りだぜ」
「………………」
あ、ヤバ。 逃げ遅れた。
興味無えツラしてたつもりなんだけど、俺のツラは感情が分かりにくいって雷によく言われてるもんな。
無理やり押し付けてきたスマホの画面に仕方なく視線を落とすと、店長の指が我が物顔で画面をスワイプしていく。
最初は女バージョンの束バッキー野郎、次は金髪ショートヘアー女、次も金髪だったがこっちはロング。
みんな同じツラに見えるギャルだな、確かに。
どの女見ても雷がよぎる末期な俺には、この時間は無駄でしかねぇって。
もういいっすよ、と言いかけた次の瞬間。
「……あ」
思わず手が動いていた。
スマホを奪って、一番よく撮れてる茶髪ロングの女の顔を拡大する。
親指と人差し指で画面いっぱいに対象をデカくしてみたが、俺は自分の目を疑った。
何しろそこには、どう見ても化粧した雷が写ってる。
トレードマークと言っても過言ではねぇキンキラキン頭じゃなくても、どんだけ化粧でツラを変えてようとも、一発で分かった。
……これは雷にゃんだ。
「お、藤堂もこの女がタイプらしいぞ」
「拡大までして見てるんすか」
「………………」
いやタイプだよ。 当たり前じゃん。
俺が今欲しくてたまんねぇヤツが写ってんだから、限界まで拡大して見ちまうに決まってんだろ。
なんでだ。
なんでこんな格好してる?
なんで俺に黙って束バッキー野郎の店で働いてんの?
モールに来てた理由は判明したけど、それを俺に黙ってていいワケねぇだろ?
「……お疲れっす」
雷の写真を削除して、何食わぬ顔でスマホを突き返した俺は裏口を出てから立ち止まった。
何より状況説明が欲しかったんで、俺のメッセも電話もシカトする雷よりヤツを捕まえた方が手っ取り早い。
話を聞くまで帰れねぇよ。 それも、俺が百納得する説明してくれねぇと、何本か血管切れる羽目になんだからな。
すでに一、二本切れてるけど。
なぁ、雷にゃん。
Sランク揃いのバイトん中に、お前が居ちゃダメじゃん。
あんなの男がほっとかねぇって。
雷、お前は可愛いんだよ。
頼むから自覚してくれよ。
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