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⑨恋慕 ─迅─⑩
これは、告白……なのか?
合間にガキみてぇな悪口言われた気すんだけど。
しかも何? なんで俺が浮気してもねぇうちから罰決められてんの?
そんなの死ぬまであり得ねえ話だが、緑色のチン○は想像しただけでキモい。 マジで。
「〜〜ッッムカつく! マジでムカつく!!」
「おい雷にゃん、落ち着け。 なんで告りながらムカついてんだよ」
「これが落ち着いてられっかよ!! なんで迅はそんなにスルスルっと言えんの!? 心臓だか胃だか分かんねぇけど、痛くなんねぇの!?」
「……痛くはない」
けど、言わんとする事は分かる。 照れてどうしようもなくなって、告白ってこんな神経すり減らす一大行事なんだってのを俺も痛感したからな。
喚きながら、目うるうるさせながら、茹でダコみてぇに顔面真っ赤にしながら、手足バタつかせながら、虚勢張った俺と同じ照れ隠しであーだこーだ言う気持ち、今の俺はめちゃめちゃ分かるよ。
興奮状態で背中を上下させるガチにゃんこな雷に、落ち着け、と言いながら優しく抱きしめてやる。
まるで、毛と尻尾を逆立てた警戒中の猫だ。
背中を擦ってるといくらか落ち着いてきたんで、俺も少しずつ冷静さを取り戻してきた。
極めるから!って意味不明に豪語してたのはそういう事だったのか。
俺好みの〝女〟になろうとして、てか実際に化けてまで俺に好きになってほしかったとか……マジで可愛いんですけど。
そんな事しなくても、俺はとっくに付き合ってるつもりだった。 雷がそんな勘違いしてるとは知らずに、一人で浮かれてた。
一番大事なことを言ってやってなかったから、浮かれてる俺の隣で雷はずっと心臓チクチクさせて痛がってたんだ。
「うぅーッッ!! なんで俺がこんなに恥ずかしいこと暴露しまくらなきゃ……ンンッッ!?」
落ち着いたと思った唇がまたもや喚き出して、咄嗟にキスしてうるせぇ口を塞いだ。
もういい。 分かった。 分かったから。
これ以上惚れさせるな。
今お前が何を言っても、どんな罵詈雑言吐いても、俺には〝好き〟の二文字しかよぎんねぇよ。
心臓チクチクさせて悪かった。
一人で悩ませて悪かった。
体から手懐けたせいで、ウブウブな雷には何一つ伝わってなかったんだよな。
「……俺もムカつく」
「ンッ……、ンッ♡」
「気付けなかった、自分にな」
「ふぁ……っ、ン……ッ♡」
じわ、と舌を絡ませて、上顎をそっと舐める。
もがこうとしていた雷の体から、力が抜けてくのが分かった。 力んでるのは弱腰の舌だけ。
俺に委ねっぱなしで一向に上達しねぇ舌が愛おしい。
苦しげに漏らす吐息が可愛くて興奮した。
もっと堪能させろとばかりに後頭部を押さえて、さらに舌を深く挿し入れる。 唇が閉じねぇように舌先で奥歯をなぞった。
やわらけぇ粘膜を執拗に舐め、その度にピクッと体を強張らせるのはそれこそあざといって。
告ったからか、キスに感情が乗った。
これからセックスするわけでもねぇのに、唇と舌がもげるまでこうしてたいと思ってしまった。
雷からも告られて、見事に気持ちがハイになっていた。
しつこいのはしょうがないとして、でも俺っぽくない優しいキスをしてやれたと思う。
唇を離す時、ちゅぷっとリップ音がしておかわりしたくなったが、あんまりがっつくとまたなし崩しになる。
それだけはダメ。 絶対。
「迅のちゅーが……おとなしかった……」
「激しいのがいい?」
「うぉッ!? いやいやいやいや! 待て待て待て待て! 俺すでに心臓がギュンギュンしてんだよ! ちょっとくらい時間くれよ!」
「チッ、うるせぇなぁ」
「舌打ちやめぇぇい!!」
全力で照れて、全力でツッコむ雷は面白え。
可愛いヤツ。 なんか色々たまんねぇから、隙あらば抱きしめちまう。
俺、何回虚勢張ったらいいんだよ。
キスして余計にパニクりだしてる雷の宥め役に徹したいとこなんだけど、俺だってこの甘々シチュは初体験なんだ。
「どう? ギュンギュン治った?」
「……こ、こんな密着してて治るかよッ! なんかキ、キキス、優しかった、し……」
「まだギュンギュンしてんの?」
「……してる! ギュンギュン、バクバク、キラキラ、ドキドキ、いっぱいうるせぇ」
「フッ……。 うるせぇのは雷にゃんのデフォルトだぞ?」
「何とかしろよ! 俺ン中の効果音止めてくれ!」
「無理だろ」
「なッ……? なんでだ!!」
「俺もそうだから」
「ふぇッ!? 迅もギュンギュン、……してんの? そんな能面で? ウソだろ? 鏡見てこいよ、ギュンギュンじゃなくてシラーっとしてんよ?」
「ギュンギュンの意味は分かんねぇけど、ほら……」
「…………ッッ!?」
もう一回キンキラキンの後頭部に手のひらをやって、俺の方に引き寄せる。 胸元に雷の耳がくるようにして、軽く押し付けた。
雷の効果音の多さには敵わねぇが、この能面の心臓もかなりのもんだぞ。
ダセェ虚勢を張りまくってる、たった今正式にお前のカレシになった男の鼓動を聞きやがれ。
「な? 心臓の音、ヤバくね?」
「迅の、心臓の、音……」
「速えだろ?」
「…………普通の速さが分かんねぇから何とも……」
こんな事してんのも恥ずいってのに、見上げてきた雷のツラは大マジだった。
あ?と不機嫌なフリをしかけた俺だが、合点がいって思わず吹き出す。
「ぶっ、あははは……っ! 間違いねぇな。 やっぱ雷にゃんは最高だ。 可愛い。 マジで好き」
「ピッ、ぴぃぃんッッ」
「それ何の鳴き声?」
「……〝雷にゃん〟」
……あ、そ。 可愛いな、おい。
雷はボケのつもりで言ったんだろうけど、笑うにとどめた俺は力いっぱい抱きしめてそのままの勢いで床に転がった。
好きって言ったら毎回ピィピィ鳴いてくれんのか?
今日から何回〝好き〟言うと思ってんの?
鳴き声で声枯れても知らねぇよ?
腹に乗せた雷を抱きしめながら、そんなアホみたいな事をマジで考えていた。
試しに言ってみる。
「雷にゃん、好き」
「…………ピィ……」
……俺の雷にゃん、可愛過ぎな?
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