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⑮勝負 ─迅─⑧
類は友を呼ぶじゃねぇが、俺の周りは総じてスポーツとは無縁の奴らばっかだ。
明日クラスマッチがあって、俺はサッカーやるんすよね。……と俺は店長に言った。何かを期待してたわけじゃねぇけど、ムシャクシャして黙ってらんなくて。
「へぇ、そうなんだ」くらいの反応で良かったのに、店長ときたら一瞬時間が止まって、その後大爆笑かましてくれた。
「藤堂が!? サッカー!? お前にチームプレイ出来んの!? ガハハハッ……!」
「………………」
……うるせぇ。そんな腹抱えて笑うほど面白え事、俺言った?
てかまた〝チームプレイ〟。大爆笑されたって事は、それが俺には不向きだって言いてぇのか。
何なんだよ。チームプレイって。
「店長」
「お、おッ!? いや爆笑したのは悪かったけどそんな人殺しの目で睨むなよ!」
「いや違うっす。チームプレイって何すか」
「知るか! 俺に難しい事は分かりまてん。雰囲気で言っただけ! 雰囲気!」
「そっすよね。店長に聞いた俺がバカでした」
「おい! それめちゃめちゃ暴言だぞ!」
「……暴言、スミマセン」
ポロッと何気なく聞いた相手が悪かった。
見るからに昔の名残りを捨てきれねぇ店長が、爽やかなスポーツについてを語ってくれるわけなかった。
年上の新人にも同じ事を呟こうとして、やめる。
そうだ。
俺がいま居る真下の階に、人生経験だけは豊富そうな人間が居るじゃん。
あの人ならまともな返事をくれそうだ。
……いや、俺はなんでこんなに必死なんだよ。雷が〝一匹狼やめろ〟って言った時のツラが頭から離れねぇからって、……。
もう本番は明日に迫ってんだ。
足掻いたって無駄なのに、俺はいったい何を知りたがってんのか。どんな言葉を聞きてぇのか。
「あ、……」
「あら迅クン! 今上がり〜? 今日はラストまで居たのね〜」
「ちょうどいいとこに」
俺がスタッフルームから出たと同時に、ちょうど通路を歩いてた目的のお姉様が居た。
走り回って、三時間仕事した俺はすぐにでも帰りてぇと思って当然なんだが、ずっと何かがモヤモヤしていた。
雷の先輩とっ捕まえて、「こっち」と通路の端に避ける。テナントスタッフがわんさか帰宅しようとしてたからだ。
「なになに? なんなの? ……あっ! ついにあの子とチョメったの!? その報告!?」
「違う。チョメったって何だよ」
「なーんだ。じゃあまだあの子ヴァージンなの? あんたのヤリチン伝説ってガセネタ? ビビるなって煽ったはずだけど?」
「ビビってねぇ!」
なんでそうなるんだよ!
まったく別角度の話になってるが、聞き捨てなんねぇセリフにガチで言い返す俺は恥ずかしながら青二才。
「アイツのヴァージンは俺の人生で一番くらい大切なもんなんで、そう簡単にチョメらんねぇよ。てか、ンな事はどうでもいいんす。聞きたい事あって」
「何? 込み入った話ならそこのファミレス行く?」
「いやそこまでは。……チームプレイって何すか」
「はっ!? チームプレイ!?」
何だ、なんでそんなに目ん玉ひん剥くんだ。
せっかく端によってんのに、声がデケェって。ジロジロ見られてますよ。
っつーか、なんの事だと思ったんだよ。
物凄ぇ剣幕に「は?」と眉を顰めた俺に、先輩はまたまた別角度から牙を剥いてきた。
「ちょっとアンタ! あたしの大事な雷を複数で犯す気!? ヴァージンだって言ってんじゃないのよ!! 複数プレイしたいんなら、あたしじゃなくて雷の意見を聞きなさい! 絶対ムリだと思うけど!!」
「……複数プレイじゃねぇ。〝チームプレイ〟だ」
「どう違うのよ!!」
何もかも違うわ。俺をどんな鬼畜野郎だと思ってんだ。
マジで心外なんだけど。
大事にしてぇから、俺はまだ雷童貞だって言ったの聞いてなかったのか? 二分前の俺のマジテンション返してくんね?
……とまぁ不満はいくつかあったが、俺は先輩に話して聞かせた。
雷を手厚く見守ってたコイツは、言うほどアホじゃねぇ。俺がこんなガキみてぇな疑問をぶつけても、あのバカ店長みてぇに茶化さないと思った。
「はぁ……なんだ、その〝チームプレイ〟ね。ビックリさせないでよ」
「俺もビックリだわ。よりによってなんでそんな勘違いするんだ」
「昨日の今日だからよ……。あぁ、心臓飛び出しそう」
「あんたもスポーツとは無縁で生きてきたんだろうけど、喧嘩するダチは居るんだろ。溜まり場があるって言ってたじゃん。雷を助けたとこ、だっけ?」
「まぁ、……そうだけど。よく覚えてたわね、その話。忘れちゃってるのかと思った」
「忘れられるか。名前と顔が分かれば今すぐにでもぶん殴りに行きてぇくらいだ」
「血の気が多いこと」
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