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⑱リア充への道!? ─雷─⑨
来た道を戻ってるだけなのに、爽快感がハンパねぇ。
それだけプラグさんの存在は大きかったって事だ。
サプライズだと聞かされちゃ、ゆっくりのんびり歩いてんのは違うと思って、途中走ったりなんかして駅まで急いでいた。
忠犬ならぬ忠猫雷にゃんってか♡
待ってろよ、迅〜ッ!
「来たぞ!」
「えっ?」
駅目前、男の大声に立ち止まった俺は、コートの上からグッと腕を掴まれた。
「迅ッ?」と振り返ると知らねぇヤンキーで、なーんだ人違いかと歩き出そうとしても、手を離してくれねぇ。
「おい、離せよッ」
俺はこれからめちゃめちゃ大事な用があるのに!
噛み付いた俺を、不細工なヤンキー二人組がニタニタ笑いながら見おろしてきた。
なんだコイツら……! 超不快だ!
ここは一発、久々の脛蹴りをお見舞いするか!?
……っと、危ねぇ。
俺は迅からトラブルメーカー認定されてるし、簡単に売られたケンカは買っちゃいけねぇって命令をされてたんだった。
そもそも、イケメン彼ピッピからクリスマスサプライズを受けようとしてる俺に、こんなとこでケンカしてるヒマなんか無いっつの。
ここは冷静に、昔じゃ考えらんねぇくらい海のように広い心で不快なニタニタは許してやろうじゃねぇか。
〝キモいから触るな〟じゃなくて、〝人違いですわよオホホ〟。……これでいこう。
「腕を離してくださいませんこと? 人違いですわよ、オホ……うわ、ッ……!? なんだテメェら! ちょっ、何すんだよ! 離せ!」
こっちがおしとやかに間違いを正してやろうとしたってのに、コイツらときたら両側から俺を持ち上げて、デケェ車に本格的に拉致しやがった。
後部座席に押し込まれた俺を、ニタニタ兄弟が挟んで座る。
なにこの状況ーーッッ!?
これヤバくねッ? 拉致はめちゃめちゃヤバくねッッ!? しかも俺、いつの間にか両手首縛られてるし!?
パニックになった俺をシカトして、車はビュンッと勢いよく発進した。
「ちょっ!? お前ら何なんだよ! 人違いだって! 俺なんも悪いコトしてねぇじゃんよぉぉッッ!!」
「おいチビ、うるせぇぞ」
「誰がチビだ!!」
「無駄に声デケェな。口塞いどこうぜ」
いやいやいや、口は塞がないでー!!
俺 絶叫むなしく、後ろから伸びてきた手が俺の口にガムテープをペタリ。
最っ悪……これで文句も言えなくなった。苦しいし。ほっぺたの皮膚が突っ張って痛えし。貼るならもっとうまく貼れよ。
てか後ろにもニタニタ兄弟が一人居たとは気付かなかったぜ。
……って、俺はどこで冷静さを発揮してんだ。
ヤバイってもんじゃねぇだろ、この状況──!
「んんーーッッ!!」
「藤堂の名前出したら確実に来るってマジだったんだな」
「てことは逆もあり得るっつーコトか」
「んーッ!! んーッッ!!」
コイツら迅の名前知ってんのか!
それなのに俺を拉致ったってことは、命要らねぇんだな!?
俺は藤堂 迅のお気に入りなんだぞ。
公表してねぇけどコイビト同士なんだぞ。
いいのかよ、こんな事して!
右のニタニタ野郎に、〝命が惜しかったら俺を拉致るのやめろ〟と目で訴えた。
だがしかし、ヤンキーは揃いも揃ってバカが多い。
「なぁ、お前ら付き合ってるってマジ?」
「……ッッ!!」
「うーわ、キモ。ガチかよ。野郎同士付き合って何すんの?」
「んんんッッ!!」
俺と迅が付き合ってるって、なんで知ってんだよ!?
てか「キモい」って言った? 左のニタニタ野郎、俺たちの甘酸っぱい関係を「キモい」って?
ゲラゲラ、ガハハっと笑いやがるニタニタの一味達。
何がおかしいんだよ。
俺は何言われたっていいけど、俺らの関係を「キモい」と言って爆笑するってことは、迅を笑い者にしたも同然なんだからな。
……雷にゃん激おこ。
人の恋愛にとやかく言うなんて、コイツらはクソ野郎だ。
手首を後ろで縛られて、ガムテを口にペタリされた俺だけど、良かれと思って「んーッ!(やめとけー!)」と叫んだのに、恩をアダで返された気分なんですけど。
「女抱きまくって感覚バグッたんだろうな、藤堂」
「んッ!? んんんーーッッ!!」
とうとう直接悪口言いやがったコイツーー!!
迅を笑うくらいなら、腹踊りでも何でもしてやるから俺を笑え!
迅は確かに感覚バグるくらいリア充まっしぐらだったけど、今は俺一筋だ!
ん、……? あれッ? 待てよ。
感覚がバグったから俺を好きになったのか?
いやまぁ、今がシアワセなんだから経緯はどうだっていいんだけど。
「俺ムリだわ、こんなガキくせぇ男相手にチン○勃つ気しねぇ。明日地球が滅びるぞってなってもムリかも」
「だから藤堂はバグってんだよ」
「なるほど、そりゃそうだ!」
「ガハハ……っ!」
運転手含めて、車内に居るのは四人。
その四人ともが、不細工なツラしてゲラゲラ笑い転げた。
何がそんなにおかしいんだ。
何も「なるほど」じゃねぇだろ。
俺を拉致しやがったあげく、俺たちを笑いのネタにしやがって……!
頭にきた。今世紀最大にキレそうだ。
てかもう、キレた……!!
「──んんッ!? んんんッッ!! んんッッ!!」
俺はジタバタと足を動かして、おとなしく拉致られとくようなタマじゃねぇってことを必死でアピールした。
上半身を大いに使うと若干車酔いしたけど、許せねぇもんは許せねぇから!!
「コイツ口塞いでんのにうるせぇんだけど」
「ガチそれ」
「アレ無かったっけ?」
「あぁ、アレな」
「アレだな」
「んッ!?」
なんだよ、アレとかアレとか言いやがって!
拉致るだけじゃ飽き足んねぇってか!?
こちとらこんな不細工ヤンキーに囲まれて自由を奪われてんだ。口うるさくもなるだろ!
どうにか逃げなきゃって考えるだろ!
右と左のニタニタ兄弟を、俺の精一杯の怒りを込めて睨みつける。
すると右側のニタニタ野郎が、「あっ」と窓の外を指差した。俺はまんまとつられて、ソイツの指の先を追う。
その時だ。
「んぐッ──!」
気を取られた次の瞬間、俺は生まれて初めて鳩尾を殴られて一瞬で気絶した。
腹に食い込むようなグーパン一つで、ガクンと項垂れて全身の力が抜ける。それからしばらく、俺は真っ暗闇の夢を見ていた。
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