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19〝好き〟の違い ─迅─⑩

 ヤシロアツトから告られた時、雷はこんな反応を示したか?  お前からの〝好き〟と俺からの〝好き〟は、雷にとって天と地ほどの差があんだよ。  俺らのバカップルぶり、なめんじゃねぇ。 「雷にゃん、好き」 「ピィッ……♡」  バカってよりド天然って言った方が正しい雷は、俺の寒い台詞にも、ヤシロアツトと張り合って何回告っても、ピィピィ鳴いて悶えた。  顔面真っ赤にして、足をジタバタさせて、「くぅ〜ッ」と謎の鳴き声をプラスしてニマニマしていた。  騒がしいが、引かれるよりマシだ。いや逆に、こんだけデレられるとこっちも照れる。  この空気はダメだ。……キスしたくなる。 「雷にゃん来い。風呂入って寝るぞ」 「えッ!? 寝る!?」  何食わぬ顔で雷を床におろした俺は、しれっと立ち上がった。  キスしたら、その先までしたくなる。  本来俺たちは、そういうコトをするために今日の日を指折り数えてた節がある。  でもさすがに今日は無えだろ。  「怖かった」って俺に抱きついて離れなかった雷の気持ちを思うと、今夜はヨシヨシしながら添い寝してやんのが紳士ってもんだ。 「ちょちょちょちょちょッ! 迅さんやいッ! 寝るって、それ……マジで言ってる!?」 「は? そりゃ寝るだろ。オールしてもいいけど何すんの? カラオケでも行く? 俺は歌わねぇけど?」 「いやいやいやいや……!」 「こんな大層なベッドがあんだから、せっかくだし広々寝ようぜ。あ、このマットレス硬めだからジャンプして遊んでもいいぞ」 「なッ……俺はガキか!?」 「……違った?」 「違うし!! そうだとしても今日オトナになるし!!」 「は?」  風呂場に行こうとした俺を引き止めた雷は、ここ最近で一番威勢が良かった。  そもそも今日は、そういう日になるはずだったからな。  邪魔が入ったせいで俺は悶々とした一夜を過ごす事になんのに、地団駄を踏むチビ雷は俺の紳士的な目論みを反故にしようっての?  ……いや、早まるな。  雷の思考回路は侮れねぇって、たった今思い直したとこだろ。  俺の勘違いだったら目も当てらんねぇから、ここは一つ確認を。 「今日オトナになるって何?」 「まんまの意味だ! さぁどんと来いッ、迅!」 「あー……」  両腕を広げた雷は、そのままボフンッと布団の上からベッドに寝そべった。  俺は黙って、両腕を天井に掲げてる雷を見つめる。  んーと。これはつまり……誘ってる、んだよな。  めちゃめちゃ雑な誘い方だが、このチビ雷にメロメロな俺には効果覿面。  本音は、今すぐ乗っかりてぇよ。  全裸にひん剥いて乳首舐めてぇし、精液タンク空っぽになるまで早漏なチン○を扱きまくりてぇし、順調に開発が進んでるアナルの具合見て、いけそうだったら今日こそずっぽりハメてぇよ。 「……残念だけど今日はオトナになれねぇな」  ただし今日の俺は、紳士な王子様。  とんでもねぇ体験をして動揺するお姫様に、無体を働くような真似はしません。 「はッ!? なんで!?」 「さっきの今だぞ。ムリに決まってんじゃん。何考えてんだ」 「えぇぇぇーーッッ!? そんなのアリ!? てかムリってなんで!? なんでぇぇーーッッ!?」 「うるせぇな。そんな絶叫する事か?」 「なんで俺をオトナにしてくんねぇのか、理由を述べよ!! 簡単に! 分かりやすく!!」 「…………」  ガバッと上体を起こした雷に言えることは、一つだけ。  不満そうに尖った可愛い唇にムラムラしても、キスさえ我慢してる俺は聖人君子にでもなった気分だった。 「あんな事があって心身疲労してる恋人を、今日くらいはゆっくり休ませてやりてぇって俺の仏心だ」 「あんな事ってどんな事!?」 「それはお前がよーく知ってんだろ」 「俺は何もされてねぇってばぁぁッッ!! こんな土壇場で優しい彼ピッピになるなよぉッッ! こんなに俺はドキドキワクワクしてんだぞ!? 心臓触ってみ!?」 「……ん」  思った以上に引き下がんねぇから、仕方なく服の上から雷の胸に手を当ててみる。  そこから伝わってきたのは、トクン、トクン、と規則正しい鼓動だ。  雷本体は大興奮してるわりに、心臓は落ち着いてんじゃん。 「なッ!? 心臓がドクドク飛び跳ねてんだろッ?」 「いや……普通じゃね?」 「NOぉぉッッ!!」  冷静に言っただけで、雷は金髪頭を抱えて絶叫した。  ……ったく、しょうがねぇお子様だな。オトナになったからって何が変わるんだ。  ガキっぽく呻いてる雷を立たせて、宥めるように優しく抱きしめてやった。 「どうしたんだよ。雷にゃん、そんなにセックスにこだわってたっけ?」 「……こだわるってか……ヤってみたいってか……早くオトナになりてぇってか……迅様挿れてほしいってか……気持ちいいことしたいってか……」 「おい」 「だって迅もヤる気満々だっただろ!? 俺のお尻を開発した張本人だし! プラグさんを俺に託したのも迅だ! 言い逃れをするなッ!」 「…………」  言い逃れって。使い方間違ってるし。  とにかく、雷が何がなんでも〝今日〟セックスしたいってのは分かった。  俺のチン○をくれって言ってるも同然だから、嫌でもムラッとする。そんなに言うなら……って軽率に襲いたくなっちまう。  それもこれも、見上げてくる猫目が可愛く煽ってくるせいだ。 「あのなぁ、別に今日じゃなくてもいいじゃん。セックスなんかいつでもどこでも出来るから。今日は大人しく俺の腕枕で寝ろ」 「分かんねぇ彼ピッピだな!! 俺は今日がいいんだ!! 今日ったら今日なんだ!!」 「ガキか」 「へぇへぇ、ガキで結構! でも俺はひと味違うガキなんだぜ!」 「いつにも増してワケ分かんねぇ。先に風呂行ってるぞ」  雷の意味不発言には慣れてる。  これ以上誘われるとマジで俺の決意がぶっ飛びそうで、半ば逃げるようにして回れ右した。  だがオトナになりてぇガキはまだ諦めてなかった。  ほんの一メートルの距離で「迅!!」と大声を張った雷の意思は、俺よりデカくて堅かった。 「聞いて驚け! お、お、お、俺はなぁ! ななななんと、準備万端なんだぞ!」  そしてやっぱり、想像の斜め上を行くバカだった。  やめときゃいいのに、俺の腕を掴んだ雷は俺だけの愛すべきバカだ。

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