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20ついにオトナになりました!? ─雷─⑦

 オトナになる=本物の恋人になれる──。  下衆な話だけど、俺は迅とニャンニャンしてきた女たちが単純に羨ましかったんだ。  迅の迅様は、まだ俺の中に入ったことが無え。せいぜい太ももの隙間だ。でもその女たちの中には……入ってる。  高三にして、リアルに全星座の数くらいじゃねぇかと睨んでる。(ググってみてくれ)  迅様はさぞかし暴れん坊だったんだろうから仕方ないにしても、それが悔しくて悔しくて。  俺のお粗末な妄想力で真っ最中を想像すると、信じらんねぇくらい心臓がチクチクして苦しくなって、そうなったら深海にいるみたいに目の前が真っ暗になって……しまいには息が出来なくなる。  冷静になって考えるとすげぇバカげたことなんだけど、迅にメロメロになっちまった俺にとってはめちゃめちゃ大事なことなんだよ。 「……なーる。雷にゃんがセックスにこだわってた理由ってそれか」 「…………かもな」  ポカン顔からすぐに立ち直ってクールに戻ったイケメンが、納得したように「ふーん」を連呼した。  俺は照れ隠しに、プイッと顔を背ける。「ふーん」の次は「へぇ」を何回も繰り返されて、まともに迅のツラが見れなかった。  迅の男らしい手のひらが、「俺を見ろ」と言わんばかりにプイッをやめさせようとする。バチっと目が合うと、唇の端を上げて笑われた。  チクショー……。なんか言いたそうなくせに、俺の性格を熟知してる迅は黙ってニヤついてるだけで何も聞いてこねぇ。  ニヒルなスマイルが似合う迅は、俺限定で優しいもんな。  おまけに外見は、この通りパーフェクトヒューマンだ。  着痩せする体は細マッチョ。しかも嫌味なくらい足が長くて高身長。しかもしかも、顔小さめのイケメン・トロ甘低音ボイスのイケボ・テクニシャンのフルコンボ。  すべてをかね備えた迅のことが忘れらんなくて、元祖たちが迅の弱味握って仕返しという名目で近付いてくるほどだった。  それだけ、迅は魅力MAXな男なんだよ。並んで歩きたい男ナンバーワンなんだよ。  だからさ、こだわるに決まってんじゃん。  自分で面食いだって言ってた生粋のヤリチンが、どこでどう間違ったら俺に惚れることになんの?  ダメ元で聞いてみたことがあったけど、その時は〝可愛いから〟、〝すぐ喘ぐから〟、〝バカだから〟、〝チビだから〟って、九割悪口みたいな理由だった。ンなの惚れた理由になんねぇし。 「雷にゃんの言いてぇ事は分かる。深く聞かないでやるよ。でも、俺らの関係ってセックスが重要だとは思わねぇけどな」 「それがぁぁ、めちゃくちゃ大事なんだよぉぉッ! もうさぁッ、つべこべ言わなくていいからとっとと挿れろよぉぉッ! 迅の迅様どうしちまったんだよぉぉッッ! わぁーーんッッ!」 「…………」  こんな小せえことで心臓チクチクさせてる俺の器の狭さがバレたら、「童貞のひがみだな」って呆れられながら爆笑されると思った。  ……言えなくて当然だろ。  俺のこんな……ガキくせぇヤキモチなんか。 「うぅ……ッッ、うッ……! ふぇ……ッ!」  くそぉぉ……ッ! 泣きたくなんかねぇのに涙止まんねぇよ……ッ。  自分の精液だけたっぷり浴びて、もてあそばれた穴をウズウズさせてる俺は自分が惨めに思えた。  俺の語彙力総動員して誘っても、いっこうに迅様は俺のお尻にやってこない。  なんか……悲しい。とてつもなく惨めだ。  鼻の奥がツンとしたのを、俺は堪えきれなかった。  止めらんねぇ涙がポロポロ溢れて、こめかみを伝う。それを迅が指で拭いてくれようとしたのをパシっと払いのけていじけた俺は、ガキだって自分で分かってる。  これ以上の醜態は無えよ。  もうどうだっていい。 「雷にゃん、こっち向け」 「ヤダッ」 「なんで泣くかな」 「……ぴぇッ……!」 「はぁ……」  こんなに何回もエッチしたいって言わせる彼ピッピ、鬼畜としか言いようがなくね?  泣いてる恋人の真上で、わざとらしいでっけぇため息なんか吐きやがって。  迅の野郎……ホントに俺のこと好きなのか? メロメロりんなのか?  俺が本心言ったんだから、迅も迅様と一緒に正直になってくれたらいいじゃん……。  裸でぐちゃぐちゃ言うやつとはヤる気になれねぇって、だんだん険しくなってきた迅のツラにバッチリしっかり書いてあるぜ?  俺とプラグさんのハラハラ珍道中まで惨めになってくるんですけど……ッ。 「……迅のバカ。ヤリチンおたんこなす」 「おい」 「イケメン巨根。クールツンデレ」 「おいッ」 「モデル体型バンドマン。喧嘩無敗の超人オバケ」 「なんだそれ。言うこと無くなってきた感じ?」 「むふぅッ」  まだガキのままな俺は、思い付いた限り精一杯の悪口を並べた。  苦笑いした迅からほっぺたをぶにっとされて唇が尖っても、負けずに続けるつもりだった。  こんな低レベルな悪口じゃ、鋼のメンタルを持つ迅にはノーダメなんだけどな。  悔し泣きしながら浴びせまくれば、俺の惨めな気持ちが少しは晴れるかと思ったんだが……全然まったく期待してたのと違った。  言いながら悲しくなって、また涙がポロリ。これは、俺大好きな彼ピッピになんてこと言ってんだろ、バカじゃねぇのって自己嫌悪の涙。  とか言って結局、相手は迅だし、俺が究極のおバカさんなの知られてるからって甘えてんだよな。  涙で滲んだ視界に、ぼやけた迅が映ってる。  迅の目には、俺がさぞかし滑稽に見えてんだろうな。 「──いいんだな?」 「……え、……?」  海底の砂に埋まる寸前だった俺の心が、迅の一言でピョンと跳ねた。  今なんとおっしゃいましたか、迅さん。  闇落ちしててよく聞こえなかったので、もう一度聞かせてください。  とぼけたツラして見上げると、俺の心の声を読んだ迅はさっそく願いを叶えてくれた。 「マジでいいんだな?」 「……ッ?♡」  えーッ! えーッ!! えーーッッ!?  急展開なんですけどッ!  もうダメだ、この世の終わりだ……ぐらい落ちてた気持ちが、お空越えて宇宙までぶっ飛んだ。  どのタイミングで紳士な王子様願望を捨てたのか知らねぇが!  俺の涙が迅の心を動かしたのか……ッ! 強敵に倒された主人公が、仲間の涙で復活して見事悪を滅ぼす……こんなアニメ見たことあるぞ! 「い、いいいいいいいです! マジでいいでふぅぅッッ!!  嬉しすぎて焦りまくった俺は、二回ベロを噛んだ。  舞い上がった俺の心ン中が、ミニ雷にゃん総出でお祭り騒ぎ。  迅様どうぞこちらへって恭しく迎え入れたいくらい、最高の気分だ。 「わふ……ッ」  テンションが爆上がりした俺を爽やかにシカトした迅が、な、な、なんと……! コンドームをスタンバイしているッ!  アッ……封を破いた。へぇ、まじまじと見たことなかったけど、収納されてる時はあんな形してんのか。  アッ……! 迅様に今、それが装着される模様……ッ!  おーっと、さすが迅! 手際がいい! ムカつくほど慣れていらっしゃる!! 「……バカ、実況するなよ。笑っちまって萎えるじゃん」  「イヤそれは困る! ごめんなッ!? 迅様萎えるなよッ? あッ、いや……大丈夫みてぇだなッ? ゴムつけたらパツパツで痛そうだけど平気ッ? ったく迅様は規格外にデケェんだから……ッ!」 「ぶは……ッ! 嬉しいのは分かったから、心の声ダダ漏れすんのやめろって。マジで萎えたらどうすんだ」 「うぅぅーーッ!!」  だってしょうがねぇじゃん!! 嬉しいんだから!!  やめるのをやめてくれてありがとうって、盛大にパーティー開きてぇくらいの気持ちなんだよ、今ッ!

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