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終・迅雷上等! ─迅─③
「はぅ……はぅ……はぅぅ……」
「…………」
雷の吐息を遠くに聞きながら、天井を仰ぐ。
余韻が凄まじい。
ほとんど動いてねぇのに息が上がる。
周辺が少し赤く腫れた卑猥なアナルに、俺のチン○が半分刺さったまま何分そうしてたか分かんねぇ。
こんな……こんな、満足感のあるセックス……した事あったか?
俺のヤリチン人生で一度だって、「抜かずの二発目ヤりてぇ」なんて思ったこと無えんだが。
無機質で機械的で動物的な行為が、相手が雷だってだけでこの違い。
「……ヤバ……」
自然と口から漏れた、何もかもひっくるめての「ヤバイ」。
虚ろな雷にもそれは聞こえたらしく、またしても女豹のポーズで振り返ってくる。今度は目を潤ませて、さっきより憔悴したとろんとしたツラで……。
「なにが、ヤバイって……?」
いかにも事後って感じの声だ。
どこか甘えたような口調で、喉がカサついた掠れてるその声が妙に腰にクる。
名残惜しくチン○を抜かねぇまんまの俺は、食い気味に答えた。
「全部だ、全部。何もかもヤバかった」
しみじみ言って、目を閉じる。
振り返ってみるまでもないが、マジで最高だった。そっちの意味での〝ヤバイ〟だ。
ぶっちゃけ不完全燃焼に違いねぇが、それでも今までの経験すべてを水に流してぇと思えるくらいには、凄まじい快感を味わった。
締まりがいいとか、プリケツがいいとか、細え腰がいいとか、そういう事じゃねぇ。
なのに雷はポスンと枕に顔を埋めて、ナカをキュッと締めた。そしてらしくねぇ呟きが聞こえた俺は、耳を疑った。
「……俺、ダメだった、……ってこと?」
「は?」
「やっぱ俺じゃ……俺の桃尻じゃ、ダメだったか……」
「はい? ンなこと誰が言ったんだ」
問うと、またナカがキュッとうねった。
出したばっかでも萎えねぇチン○が、そのうねりに反応して二回目を期待する。
だがそれどころじゃなかった。
なぜか最高の初体験をしたはずの雷が、グズグズいじけ始めたからだ。
「……だよな、そりゃそうだって……。俺だけが興奮して、ハフハフしてた気がするもんな……。ヤリチンには物足んねえよな……? 俺マグロってやつだし……てか何が何だか分かんねぇうちに終わってたし……」
「コラ、雷にゃん。なんかとんでもねぇ勘違いしてんぞ」
「もっと自分から動いたり? 自分から迅様のデカチン○咥えてみたり? 迅の腹に乗って「カモ〜ン♡」とか言えたら良かったんだけどさ……。俺ってさ、ほら……童貞処女じゃん?」
「もういいって。そういう話は聞きたくねぇ」
「うむぅ……」
なんでだよ。なんで、もっと浮かれていい俺の「ヤバイ」発言を、そっちに変換すっかな。
確かに雷はハフハフニャーニャー言ってたが、それは一応セックスってもんに興奮しての当然の喘ぎだろ? めちゃめちゃ可愛かったぞ?
当たり前だが、物足んねぇともマグロだとも思ってねぇ。
逆に、何が何だか分かんねぇうちに終わってるほど早くイった俺に落ち度があるんじゃねぇか。
気持ちよすぎて、最短記録更新したんだ。
そんなネガティブにグズグズ言うのは間違ってる。絶対。
「何ブツブツ、ネガなこと言ってんだよ」
「ところで! 俺……っ、迅のカノジョ不合格?」
「は? ところでって……マジで何言ってんの?」
「だって迅が、ヤバイヤバイうるせぇから……!」
「そんな意味でヤバイって言ったわけじゃねぇ。てかうるせぇほど俺言ったか?」
「……いや、そういや一回ポッキリだった気もしなくもないかもしれない……あ、ンッ♡」
やけにグズるんで、ギュッしてチューの刑を執行しようと前触れなくチン○を抜いたら、これだ。
金髪を派手に揺らして喘ぐ雷は、抜く時のズルッと感が相当好きらしい。アナルで感じるための第一歩は余裕でクリアしてんだから、めいっぱいヨシヨシしてやりてぇのに。
俺がゴムを処理してる間、カノジョになれなかったとかふざけた事をのたまってるのを聞くと、つい意地悪したくなる。
「もうちょい擦ってやろうか?」
「んやッ! それはやめろッ! それは……もう……刺激が強えから……ッ」
「それならゴチャゴチャ言うな」
「それもイヤだ!! 俺は童貞処女なんだぞッ!? 迅のいっきょしゃ、いっきょ……いっきょう……いっ……あぁッ! とにかくなぁ! 「ヤバッ」なんて言われたら不安になんの! ゴチャゴチャ言いたくもなんだろ!」
「……一挙手一投足って言いてぇの?」
「そう! それだ! おそらく!」
「……はいはい」
コイツの脳内の変換機能、ちょっと誤作動起こし過ぎな。
前々回といい、前回といい、今回といい、あと何回こういうちっさいスレ違い起こさせりゃ気が済むんだ。
俺は雷より経験豊富。でもこんなに満たされた毎日も、セックスも、初めてなんだよ。
雷が不安なら、俺も不安。
いつもはもっと保ってるムスコが不甲斐無くて、早漏でごめん。雷のアナルに感極まった。太ももエッチよりハードル高えぞ、とか言ってビビらせてマジでごめん。
デカいだけで堪え性の無え〝迅様〟に嫌気が差してねぇか、俺だって死ぬほど不安だ。
「……ん」
「なんだよッ」
枕にしがみついてメソメソしてる雷を抱き起こす。それからゆっくり、両腕を広げてみた。
「ギューするのか。しねぇのか」
案の定ネコみてぇに「シャーッ」と敵意むき出しの目で睨んできたが、この言葉を言うとすぐさま懐いてくる。
それはそれは短い葛藤だ。
「〜〜ッッ、しろッ!」
「フッ……」
抱き締めてはほしいんだ。
ゴチャゴチャ言って拗ねてっから「いらねぇ!」ってふて寝するとこだろ、今のは。
両腕を広げた俺に飛びついてきた雷を、俺はベッドに転がりながら受け止めてニヤつく。勢いが凄すぎて、ぶつかり稽古みたいな音したけど。
素直で単純なとこは、どんなに不安がってたって繕えねぇようだ。
それなら俺も、意地悪ばっかしてねぇで素直になるだけ。
「黙ってカノジョの余韻に浸ってろ」
「ヒェッ!? ……か、かか、……かッ……」
「ん、動揺しすぎ。舌噛みそうだから黙ろっか」
「ふんふんッッ!」
……雷には言葉が必要だ。
あと、俺の苦手な愛情表現もやりすぎなくらいがちょうどいい。
こっちが素直にゲロ甘でいれば、雷はずっとニヤニヤウキウキしてる。それが可愛くて、もっと甘やかしたくなる俺も相当だ。
ほら。さっそく機嫌が治って、腕の中からトロ顔で見上げてきた。
このツラは多分……キスの催促。ねちっこくねぇ方のやつ。
──これだからコイツのカレシやめらんねぇんだよな。
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