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終・迅雷上等! ─迅─⑧
🐾 🐾 🐾
結果、俺たちにとってセックスする・しないはめちゃめちゃ重要な問題だった。
雷がヤりたがってた理由はさておき、ヤれりゃシアワセとは限らねぇってことを気付けたのはデカい。
俺は確かにヤリチンだった。性欲モンスターと呼ばれても否定出来ねぇくらいには、精通した翌年からリア充だった。
でも雷が相手だと、性欲を満たせればそれでいいとはどうしても思えなくて。
方向音痴で、トラブルメーカーで、単純バカで、時代錯誤な金髪ヤンキーに誇りを持ってる無類の猫好きチビのことが、俺はたまんなく好きだ。
たぶん、出会い頭に雷が振り返ったあの瞬間から、俺はコイツに惹かれてたんだと思う。
「リア充爆発しろ」っつーひがみっぽい嫌味を何十回と言われても、なぜか怒りは湧かなかった。それどころか、翼が雷にちょっかいかけてんのが面白くなくて、毎日そっちにイライラしてた。
女とのセックスの合間にあろう事か雷を思い浮かべて、「ケンカに巻き込まれてやしねぇか」を心配して身が入らず、遅漏に拍車をかけたっけ。
……ったく。雷が現れてから、退屈とは無縁だ。
何回ヤキモキしたか。
何回イライラしたか。
何回ハラハラしたか。
何回ドキドキしたか。──柄にもなく。
俺は雷に、心身共に振り回されっぱなし。気が休まらねぇ。
……でもま、この天然記念物並に素直すぎて危険な雷と付き合ったからには、振り回されてナンボだ。
むしろ最高じゃん。
楽しくて慌ただしくてシアワセな毎日が、これからずっと約束されてんだから。
…………🐾
仮眠のつもりで落ちた俺だったが、凄まじく安眠効果のある抱き枕のおかげでなんとチェックアウトギリギリまで寝てしまっていた。
俺よりさらに爆睡してた雷が、結局なんにも堪能する事無くラブホをあとにする羽目になってショボンとしてたのは可哀想だった。
すかさず「また来ればいいじゃん」と言った俺は、つくづく雷に甘い。一発で機嫌を復活させる魔法の言葉をかけてやるスピードが、尋常じゃなかった。
その後、ケツがヘンだと言いつつ未だニヤけてる雷は、駅までくらいなら歩けると言って聞かなかった。
しょうがねぇから手繋いで、散歩がてら徒歩でゆっくり帰宅してる途中。
本人いわく晴れてホンモノの恋人になった心境を、何気なく聞いてみた。
「雷にゃん、初体験どうだった?」
「ンヘッ!? いや、んー……」
すると謎のワンステップを踏んで動揺した雷が、俺をチラ見した。
「正直に言ってい?」
「どうぞ」
「……苦しかった。迅様をナメてた」
「あー……」
残念ながら、感想は変わらず。
空気を読まねぇムスコはしばらくギンギンのままで、寝落ち寸前まで雷からは「三回戦したいんじゃねぇの?」としつこく煽られてたんだが、俺の理性が見事勝利した。
雪辱を晴らせたとは思えねぇけど、くだらねぇ意地でも強がりでもなく、俺はただ心ン中がたっぷり満たされてて満足だったんだ。
とはいえ雷は、二回戦とも終始苦しかったらしい。
それが正直な感想なら仕方ねぇけど……複雑。
「……そっか」
今朝も「バンドマン再来」とか言って笑われたコートのポケットに、繋いだ雷の手ごと突っ込んで苦笑する。
回数を重ねれば、いつかは雷も慣れる。それと同時に、あの引っかかりも突破出来たらいい。
アナル初体験なのは俺も変わんねぇんだ。
初回から俺の大蛇を奥まで挿れて、ベッドがギシギシ鳴るほど激しく突きまくるなんてムリだったんだよな、はじめっから。
「あとな、俺……迅に任せっきりで何も出来なかったから……悔しい」
「何もって?」
見下ろすと、昨日より色味の増した気がする唇がムムッと尖っていた。
「俺マジで、なんっっにも出来なかった。迅にされるがままで、……ゴメンって感じ」
「ンなこと気にしてたのか」
「気にするだろ!! でもな、童貞処女だから許してな? 俺もっと、迅をあっと驚かせるくらいのテク身に付けるから! フェラとかさ……うまくなりてぇなぁ」
「練習すれば?」
「そりゃそうしてぇのは山々だけど……どうやって? まさか行きずりの野郎のチン○を練習台に……ッ!?」
「それやったらマジで殺す」
「ヒェッ!?」
黙って聞いてたら……とんでもねぇ事を言い始めたぞ、コイツ。
パワーワードを口走りつつ、ポケットの中で雷の手をギュッと握って怯えさせちまったが、今のはとんでも発言した雷が悪りぃ。
遠回しに〝うまくなりてぇなら俺のをペロペロして練習しろ〟って意味で言ったのに、これだから経験薄のウブウブは。
行きずりの野郎のチン○で練習した成果を発揮されて、誰が喜ぶんだ。
てかそれは完全なる浮気だ。想像しただけで全身に震えが走る。
この際だから、めんどくせぇ誤変換を得意とする雷にはちゃんと言葉で伝えとこう。
「あのさ、一つ言っとくけど。世間一般の浮気基準と俺の浮気基準は違うからな」
「そ、それはどういう……?」
「俺の目の届くとこにいろ。常に」
「ンなのムリじゃね!?」
「は? 雷にゃんはもう俺から逃げらんねぇなって言ったぞ、俺。忘れた?」
「…………ッッ??」
喋ってるうちにだんだん歩幅が小さくなってはいたが、とうとう立ち止まって仰天した雷はさも藪から棒だと言いたげだ。
いやいや、その反応に俺はビックリ。
物理的にはムリでも、努力は怠るな。……と、言いたい。
一線を越えたからは、不貞行為は無論厳禁だし? 誰彼構わず懐くのも、一人で外をウロつくのも、これまで以上に規制を強化する。
俺の内にあった束縛男の気質を、他でもない雷が開花させたんだ。
責任は取ってもらう。
「分かりやすく言ってやろうか」
「ぜひ頼む……ッ!」
こんな公衆の面前で改めて言う事でも無えんだが。
俺を見上げてくる雷の目がモノ言いたげで、ガチで何にも分かってねぇツラしてたからしょうがねぇ。
スーツ姿のオッサン軍団が、向かい合う俺たちを避けて歩いてる。ソイツらが通り過ぎるのを待ってから、俺は気障に雷のほっぺたを撫でた。
「雷にゃんは、俺から一生可愛がられるのと引き換えに自由が無くなったんだ。俺は雷にゃんを好きなだけ縛るし、雷にゃんも俺のこと好きに縛っていい。……な? セックスして良かったろ?」
「…………ッッ??」
「ホンモノの恋人になるってのは、そういうことだ」
「…………ッッ!?」
素早い瞬きをした雷は、「そうなのか!!」と言いたげに目を輝かせた。
キモいくらいの独占欲を押し付けても、雷の反応はまずまず。単純なコイツは、それが恋人の特権だってポジティブに受け取ってる。
俺は、〝言うことを聞け〟なんて縛るつもりは無え。
ただずっと、一生、雷は俺だけにキュンキュンしてればいいってだけの話。
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