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第三話(鈴視点)
Side 鈴
そんなある日の出来事、大学内で少し有名なカップルの彼女さんとはづくんがデートをしたと言う噂が流れた。
2人が街を仲良く歩く姿を目撃した人物がいて、それを彼氏さんに告げ口したそうだ。
いくら女の子好きを公言していても流石に他人の彼女に手を出したことはなかったはづくんのその出来事はあっという間に大学に広まった。
そうしてここぞとばかりに全く関係のない男子達が正義を振りかざしてはづくんを糾弾し始めたのだ。
その噂が本当なのかどうかはきっとその男子達にとってはどうでも良かったのだろう。ただ、気に食わないはづくんの悪意ある噂を利用して憂さ晴らしをしようとしたんだと思う。
けれどそれを制したのがまさかの噂になっている彼女の彼氏さんだった。
周りは皆戸惑った。
それもそのはずやんね、普通真っ先に糾弾するとしたら自分の彼女に手を出された彼氏さんのはずやもん。
そんな周りの困惑をよそに彼氏さんが事の経緯を話し出した。
その子は最近、彼氏さんとの関係に悩んでおり、気分転換にと友達に勧められる形ではづくんとデート、もといお出かけをしただけだった。
その際はその友人もいて決して2人っきりでは無かったこと、ショッピングをしたり、カフェでお茶をしたりしていただけでやましい気持ちは一切無かったこと、気分転換だけのつもりだったが色々親身になって聞いてくれるはづくんに思わず彼氏との悩みを打ち明けてみれば心がスッキリしたこと、そして「俺は話をきいてあげたり、気分転換に一緒に出掛けたりしかしてあげられないけれど、君の気持ちをそのまま素直に彼氏さんに話せばどうかな?何も言わないですれ違ったままお別れとかになったらきっと後悔が残ると思うし、そんなのやっぱり寂しいと思うんだ。折角俺達人間はさ、言葉って言うコミュニケーション能力があるわけだし、強い絆で結ばれていたら言葉なんていらないだなんていう人もいるけれどそれは嘘だよ、いや、そういう人達もいるのかもしれない。けれどさ、結局のところやっぱり人の気持ちなんて伝え合わなきゃ分からないものだと俺は思うな。実際問題、君は今その事で悩んでるんだろうし、もしさ、その事で彼氏さんとお別れしなきゃいけなくなったらさ、今度は2人でデートしよう。まぁ、話を聞く限りきっと大丈夫だと思うけどね」と言う言葉を受け、その日早速彼氏さんと心の内を話し合った結果以前よりも更に関係が良好になったこと。
だからむしろ自分ははづくんに感謝しているという事。
そんな事を当人が言えばそりゃ周りもそれ以上の事は何も言えなくなった。
はづくんの事を良く思っておらず糾弾しようとした男子達もそそくさとその場を後にした。
そうしてその後、はづくんと今までデートと言う名のお出かけをした女の子たちが如何にはづくんのデートが女の子の理想を詰め込んだものなのかと言う事を周囲に伝え、その結果「チャラ男紳士」だなんてあだ名が誕生し、それ以来、男子からのはづくんへの態度も軟化したのである。
そうして女の子からの好感度は益々上がり、今では恋愛相談もよく受けているそうで実は本人のあずかり知らぬところで恋愛相談マスターだなんてあだ名もついていたりするのだ。
実際、はづくんに相談して関係が改善されたカップルはこの大学内で俺が知っているだけでも両手で数えきれないほどいる。
けれどそれだけ恋愛相談にも乗り、色んな女の子達とデートを繰り返し、女の子好きを公言しているはづくん本人の恋愛話は一度も浮上したことが無いのが俺の中での最近の疑問だ。
はづくん、チャラいけれどイケメンだし、優しいし、モテそうなんだけどなー彼女ができたって聞いたことないし、デートをしている女の子たちも建前上デートって呼んでいるだけで実際はただの友人との遊びみたいな感じだってみんな口をそろえて言うし、付き合いたいわけじゃないっていわれてるしね、むしろみんなの羽月くんなので抜け駆け禁止、付き合うなんて考えられない、みたいなこと言われてるし。
そう、考えて思わずくすりと笑ってしまった。
「はづくーん、机に突っ伏してないでお昼食べないの?一緒に食べよーよ」
当時を回想しつつ未だ突っ伏したままのはづくんにそう、声をかければ再び呻いた後ゆっくりと顔をあげた。
「りんりんが意地悪だ」
「え~ほんまの事言っただけやし~。ほら、ご飯、買いに行こ?」
「あー、俺実はもうご飯食べ終わってるんだよね」
「そうなん?わーじゃあ俺ちょっと悪いことしちゃった?」
「ううん、この後暫く次の講義まで時間あったしむしろ話しかけてくれて良かったよ。まぁだからさ、席確保しとくからりんりん、ご飯買ってきたら?」
「ありがと!ほならそうさせてもらうわ~」
そう言って食券を買いに行って数分後、両手でお盆を持って席に戻ってみれば俺の座っていた席にめーちゃんがいた。
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