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第四話(鈴視点)
Side 鈴
「あれ、めーちゃん起きたん?」
「お腹空いてなー目が覚めてん」
そんなめーちゃんの手にはいつの間に手に入れたのか菓子パンの入った袋が握られていた。
「それどしたん?」
「羽月がくれたー」
「めいめい、お腹空いたって言う割にご飯買いに行こうとしないから後で食べようと思っていた菓子パンが余っていたの思い出してあげたんだ」
「いや、やってあの人混みの中、寝不足の俺が行ったらどうなる思う?即HP尽きてゲームオーバーやろ」
「えーそんな事なら連絡くれたら俺がめーちゃんの分も買ってきたのにー」
そう、むくれて口に出せば何故だかはづくんに笑われる。
「りんりんは本当にめいめいが好きだね」
そう言ったはづくんに即座に高校時代からのお決まりの言葉を返す。
「あったり前やーん、俺、めーちゃんのこと1番好きやし」
「はいはい、2人って高校の頃からの仲なんだっけ?」
「そそ、高3からの付き合いやねー」
「うん、それまで一度も同じクラスなったことなかったし、そもそも小中は違う学校やったしなー」
「へー、もっと小さい頃からの仲だって言われても疑うことがないくらい本当に仲良いよね」
「何やろな、何かりんちゃんとは波長が合ったんやろな、いつの間にか一緒におるんが当たり前になってたわ」
「良いね、そう言うの」
「大学決める言うときもこの大学受けようと思ってるって話したらりんちゃんも一緒に受ける言うてくれてなー」
「だってめーちゃんと高校でサヨナラなんて寂しかってんもん、折角仲良くなれたのに東京行っちゃったらあんまり会えんくなるやろしって」
「あー2人は地元、関西だもんね、確かに関西と関東じゃ結構距離離れちゃうか」
「うん、それに絶対めーちゃんと一緒の大学通えたら楽しいって言う確信あったし!」
「はは、それ大学決める時も言うてくれたやんな、その言葉結構俺嬉しかったから覚えとる。実際俺もりんちゃんと同じ大学通えたら楽しそうやっておもっとったし」
◇◆◇
~1年前 春~
「今日から俺たちも大学生やなー」
「うんうん、楽しみやね、大学生活。ほんまめーちゃんと一緒の大学受かって良かった~」
「ん、俺もりんちゃんと同じ大学通えんの嬉しいって思ってんで」
そう言ってふわりと笑ってくれるめーちゃんの顔や言葉に俺の心臓はバカみたいに早くなる。
うぅ、その笑顔と言葉はずるいわ、めーちゃん。
分かっている。
めーちゃんは単純に仲の良い友達としてそんな風に言ってくれている事をきちんと理解している。
けれど頭で理解しているのと、心が動揺してしまうのとは決してイコールで結ばれるわけではないのだ。
「あ、そやそやりんちゃんはサークル何入りたいとか考えたか?」
「せやねぇ、パンフレットに載っとった映画研究サークルとかおもしろそうやなーとは思った!」
「あぁ、俺もそこちょっと気になったわ」
「ちょっと調べて見たら結構な大所帯みたいやけどなんや各々好きに趣味の合う人で集まって映画鑑賞したり、ちょっとした自主製作映画を流したりしとるみたいでさー」
「りんちゃん漫画とかアニメ好きやもんな」
「せやねん、ちょっと自主製作映画ってのに興味惹かれてな、実際そのサークルさんが制作したアニメーション映画見てみたら思いの外面白くて、こんなんできたらええなーって、絵心はからっきしやけど、シナリオ作りならできそうなと思ってな」
「ええやん、面白そう」
「やろ~」
そんな話をしていれば目の前でパサッと、何かが落ちる音がしてそちらへ視線をやればそこには手帳が落ちており、その数メートル先に恐らくその手帳を落としたであろう人物の姿が見えた。
咄嗟に手帳を拾って追いかけようとしたものの、突然現れた他学生の群れにその人物の姿を見失ってしまう。
「あぁ~どないしよ~」
「落とし物として事務室に届けたら?」
「それが良いよな~……めーちゃん」
「どないしたん?」
めーちゃんのその言葉に頷きつつ、開きっぱなしになっていた手帳を閉じようとした瞬間、思わずそのページを見て固まってしまった。
「……俺、これ描いた子と一緒に映画作ってみたい!」
「え、えぇ、りんちゃん急やな」
「やってこの絵めちゃくちゃ上手いと思わん?なんかテンションあがる!」
「オウフ、りんちゃんが新作ゲームを手に入れた時の俺みたいなテンションなっとる」
「と、言うわけでこの手帳の持ち主探しだすぞ~!」
~それから数分後~
「い、いないね~」
「そりゃこの大学めちゃくちゃ広いしな、そもそもそれ落とした人の姿もきちんと俺ら見た訳ちゃうし」
「う、うぅ、ごめんね」
「何で謝るのん?」
「いや、よくよく考えたら突拍子もない行動にめーちゃんのこと巻き込んでるなぁって……」
「……はは、ははは」
「め、めーちゃん?」
そう、気まずげに言った俺の言葉に急に笑い出しためーちゃんに思わず戸惑いの声をあげてしまう。
「何を今更、りんちゃん普段から結構強引やぞ」
「うっ」
「りんちゃんが特殊な態度取るからじわってもたわ」
「うぅぅ」
「でも、そんな強引な所俺、嫌いやないで」
「え、」
「はーほんまりんちゃんとおったら退屈せんな」
そう言っためーちゃんに何か言おうと口を開こうとした俺の言葉は「あっ」だなんて言う第三者の声によって遮られた。
その声のした方へ視線をやればザッチャラ男みたいな見た目の子がそこにいた。
「あの、それ多分俺の手帳、です」
「おー持ち主さん見つかって良かったー」
「えっと、拾ってくれたんですよね?ありがとうございます」
そう言って手を伸ばしてきた相手にニッコリと笑いながら手帳を手渡した。
「ねぇねぇ、君名前何て言うの?俺はね、宮前鈴(みやまえ りん)。こっちはめーちゃん」
「雑な紹介やな、咲良芽季(さくら めい)や、よろしく」
急に自己紹介を始めた俺たちに若干戸惑いながらも
「羽月詩音(はづき しおん)です」
律儀に名前を教えてくれた彼の手帳を持ったままの手を勢いよく握る。
「羽月くん!良かったら俺たちと一緒に映画研究サークルに入らない?あ、そもそも羽月くんって1年生?もしかして先輩かな?あれ、じゃあもうサークルとか入ってる?」
矢継ぎ早に質問する俺に「1年生だけど……」と答えてくれた羽月くんにじゃあ何も問題ないかなんて言って強引に自分の連絡先を書いた紙を渡した。
そんな俺をめーちゃんは笑いをかみ殺そうとしてできずにくっくっ、何て変な笑い声をあげてみていた。
◇◆◇
「りんちゃん?」
そんな、風に過去を回想していればめーちゃんからの呼びかけにはっと意識が浮上した。
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