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第五話(鈴視点)
Side 鈴
どうやら大分長いことぼんやりしてしまっていたらしい。
少し気づかわし気に見てくるめーちゃんの視線にドキリとしてしまう。
「あ、いや、めーちゃんにそうやって言ってもらえるなんてめっちゃ嬉しいー!俺も毎日楽しいよ!何やその言葉聞いて去年のこと思わず思い出してたんよーほら、思えばはづくんとも入学式の日からの付き合いなんやなーって」
「あぁ、ものすごく強引に連絡先渡してきたよね、りんりん。その後も暫くずっと俺の事見かけるなり一緒にサークルはいろーって勧誘してきて」
「うっ、だってほんまにはづくんの描くイラストめっちゃ好みやってんもーん、一目見た瞬間、これ描いた子に俺の描いたシナリオでアニメーション制作してほしいって思ったんやもん!」
「熱烈やな~」
「めいめいも他人事じゃないでしょ、りんりんと一緒になってさー」
「いや、だって俺はりんちゃんの味方やぞ、いつだってできるだけ願い叶えてあげたい思うのは普通やろ」
「めーちゃん!」
「うん、本当、2人の仲の良さは十分すぎるほど伝わってきたよね」
そう、呆れた風に笑ったはづくんに「ふふん」だなんて得意気に笑った。
そうして他愛も無い話をしていれば。
「あーやっぱり宮前君達だ」
と、言う声が頭上から降ってきたので顔を上げればそこにいたのは
「あおちゃん!」
俺達と同じサークルに所属していて、尚且つ一緒に行動をすることの多い、はづくんの次に仲良くなった友人だった。
ガタンッ
「でたな!女装男子!何の用だ、話しかけてくんな!!」
俺があおちゃんに話しかけようとした瞬間勢いよくはづくんが席を立った衝動で椅子が大きな音を立てた。
「別に用って程用はないんだけど用がないと友達に話しかけちゃいけないの?そもそも僕、別に君に声をかけたわけじゃないんだけどなー」
「近くに寄って来られると俺たちまで変態集団だと思われんだろうが」
「強ち間違いじゃないんじゃない?チャラ男紳士だなんて愉快なあだ名をつけられている君も立派な変人の部類だと思うけどな」
「ぐぬぬ」
「まぁまぁ2人とも落ち着いて」
突然始まった言い合い……と言うか、噛みつくはづくんにあおちゃんがいなすって感じなんだけど、とにかくカッカしているはづくんを落ち着かせようとどーどーなんて言いながらはづくんの肩を抑える。
「ふんっ、りんりん、めいめいごめんね~これ以上ここにいたら不愉快指数が最高潮に達しそうだから気分転換に女の子の所行って癒されてくる~、バイバーイ」
そう、言い残して去っていったはづくんに思わずため息が出てしまう。
いや、振り向きざまにあおちゃんにアッカンベーしてくとか小学生かいな……
「相変わらずだな~、はづくん、女の子や俺達には普通に優しいのに何であおちゃんにだけあんな態度なんやろう」
「あぁ、初対面でこっぴどく振っちゃったからね。騙したな!って言いがかりつけられたのと、その日彼と同じように勝手に勘違いして告白してくる人たちが多くてイライラしちゃって少し冷たく当たったのが原因かもなーとは思ってる」
そう、悪びれることなく言ったあおちゃんの言葉にはは、と乾いた笑いが漏れた。
藤堂碧葉(とうどう あおば)。
俺達と同じ映画研究サークルに所属していて尚且つ一緒にアニメーション制作をしたりする男の子。
そう、男の子であるんだけれど彼の姿は誰がどうみてもどこぞの可憐なお嬢様にしか見えない姿をしている。
言わば女装男子なのである。
入学当初、これまたすごく可愛い女の子がいると噂になった。
しかし1週間もしないうちにその女の子は実は男であると言う事実が判明した。
けれどその時は俺もまだその人物がどういった人なのかと言うのは全く知らなかったのだ。
そうしてそんな噂が広がり始めた頃、学部は違ったけれどたまたま同じ講義を取っていたあおちゃんと友達になった。
そう、俺はあおちゃんがその噂の人物であるという事を知らずに、つまりは女の子だと思って友達になったのである。
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