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第六話(鈴視点)

Side 鈴 そんなあおちゃんが実は噂の女装男子だったと言う事実を知ったのはこれまた俺が友達になったあおちゃんをしつこくサークルに誘い、ようやくOKを貰えた日のことであった。 ◇◆◇ ~1年前 春~ 「いや~、あおちゃんが頷いてくれてめっちゃ嬉しいわ、ありがとな」 「まぁ映画は嫌いじゃないし高校時代は漫画アニメ研究部に所属してたからアニメーション作るのも楽しそうだなーって」 「て言うか俺は藤堂と思いの外映画の趣味が合っててちょっと驚いてる」 「そう?」 「おう、結構詳しいんだな映画」 「周りにそう言うのが好きな人たちが沢山いたからねー。自然と趣味とかも影響受けるよね」 「へー」 そんな話をしていればガラッと扉が開く。 「あ、羽月くん、昨日Lineした新しい仲間紹介するな~」 「可愛い女の子なんだよね、俺すっごくたのしみに……」 俺の言葉にニッコリ笑いながら言葉を発したはづくんがあおちゃんの方を向いて不自然に固まった。 その事を不思議に思い、口を開こうとした次の瞬間 「な、なんでお前がここにいる!この、女装男子~~~!!??」 と、言う羽月くんの大きな叫びが教室内に響き渡った。 「え、え~~~!?あおちゃんって女の子じゃなかったん!?女装男子ってもしかしてあの噂の……!」 「なにそれkwsk」 「いや、逆に宮前君も咲良君も気づいてなかったことに僕は驚いているんだけど」 「いや、だって普通に女の子じゃん!何で言ってくれなかったのさー」 「別に性別聞かれなかったし、普通に2人とも気づいてると思ってたから」 「それはそうだけど!その通りなんだけど!!」 うぅ、だってそんな自己紹介の時に性別聞くことなんてまずないじゃん! 普通に可愛い女の子だと思ってたよ…… いや、別にあおちゃんの事、可愛い女の子だからって誘った訳じゃないんだけどね、他学部の授業を受ける時、偶々隣の席に座って、話していたら好きな映画の趣味とかが一緒だったのと、高校時代に漫画アニメ研究部?的なものに所属してたって聞いて、それなら一緒に映画研究サークル入って過ごしたら楽しそうだなって思ったから誘ったんだけどね! そうやって心の中で誰に言うでもなく言葉を並べていれば小さく咳払いした羽月くんによって俺の思考は引き上げられる。 「あー、りんりんには悪いんだけど、そいつが一緒にやるって言うなら俺は抜けさせてもらうね」 「え!?」 そう言って、早々に教室を出ていこうとする羽月くんの方へ慌てて駆け寄って腕を掴んだ。 「な、なんで!?」 「いや、普通に考えてそんな変態とつるみたいなんて思わないでしょ」 「その変態に告白してきたのはどこのどの人だっけ?」 「うぐっ」 「羽月くん、あおちゃんに告白しちゃったんや」 「即、振ってあげたけどね」 「草。秒で撃沈したんやな、ご愁傷さまやで」 「ちょっ、めーちゃん!」 「と、とにかく!俺はそいつに騙されたの!そんな可愛い見た目して男だと思うわけないじゃん」 「あ、見た目がタイプだったわけか」 「まぁ女の子や思って、告白したら実は男でしたってなったら恥ずかしいもんな、俺ならMPゴリゴリ削られてメンブレするわ」 「別に、俺がどんな格好しようと俺の勝手でしょ、誰に迷惑かけてるわけでもないし」 「いーや!迷惑かけられたね!恥をかくっていう精神的迷惑を被った!!」 「ちょっと何言ってるか分かりません」 「その言い方も腹立つ~!」 「それにあの時も言ったけれど勝手に勘違いしたのはそっちでしょ。出会い頭にいきなり告白されたんじゃ騙すも何もないし」 「そりゃエンカウントした瞬間攻撃されたらチートでない限り回避不可能やもんな」 「めーちゃん!告白を攻撃と一緒にしちゃダメでしょ。ちょっと黙ってようか」 「うぅぅ……」 あおちゃんだけでなく、めーちゃんのさりげない言葉にもダメージを受けているのか若干羽月くんが涙目になっていて何だかすごく可哀想に思えてくる。 い、いや、でもここで腕を離そうもんなら即座に逃げそうやもんな、それだけは嫌や~。 何としても引き留めないと! 「羽月くん」 「何さ、りんりん」 俺の呼びかけに素直にこっちを振り向いてくれる羽月くんに思わず小さな笑いが零れてしまう。 羽月くん、意外と素直なんだよな。 今も振りほどこうとしたら振りほどけるくらいの強さで掴んでるのに無理やり振りほどこうとせんと立ち止まってくれてるし…… そんな彼の性格を利用するようで少し申し訳なくも思うけれどここはもう、情に訴えるしかないね! そう、決心をして俺は小さく息を吸って羽月くんへと視線を合わせて口を開いた。 「俺、東京来てめーちゃん以外で初めて友達になったん羽月くんなんよ、学部は違うけどだからこそサークル一緒にやれたら楽しいやろなー思ったし、初めて会った時にも伝えたけど羽月くんの描くイラストめっちゃ好きやねん、一緒に映画作ったり、色んな話出来たらええなって思ってたんやけど羽月くんはそうやなかった?」 「や、やめて、そんな目でこっち見ないで!」 「やっぱりあかんかな……はづくん?」 「んぐぅっ、ず、ずるいよ、そんな顔で急にあだ名で呼んでくるなんて、これ断ったら俺が完全に悪者になっちゃうじゃん」 「羽月―諦めた方がええよー、そうなったりんちゃんは何が何でも堕としにかかってくるから」 「めーちゃんもヤジ飛ばすんやなくて手伝ってよ」 「えー、さっきまで黙っとけ言うから大人しく黙っとったのに、ちゅーか説得とかはりんちゃんの得意分野やん、俺には無理ぽ」 そう言ってひらひらと手を振るめーちゃんをほんの少し恨めしく思いながらもう一度羽月くん、改めはづくんの方へ顔を向ければ困ったように眉を下げて瞳を揺らす彼にもう一押しだと俺の本能が叫ぶ。 「ねぇ、はづくん、俺、まだ数日しかはづくんと出会って経ってないけれど結構仲良くなれたなって思ってるんよ、はづくんは違う?俺の事嫌い?」 「うぐぐ……はー、もうわかったよ、わかった、わかりました。りんりんがそこまで言うならもう出ていくなんて言わないから腕離して」 「はづくん!」 「でも!俺はそいつの事仲間だなんて思わないし、あくまでりんりんのお願いを聞いてサークルに参加するだけだからね!それに聞くところによれば映画研究サークルって結構活動は自由なんだよね?じゃあ俺は気が向いたときにでも参加させてもらうよ。毎回毎回その女装男と一緒に行動するなんて発狂してしまいそうだからね」 「んー、俺としては2人には仲良くしてほしいんだけど……」 「絶対無理!」 俺の言葉にふんっと、そっぽを向いたはづくんを横目に事の成り行きを見守っていためーちゃんが隣のあおちゃんへと声をかけた。 「いやてか、藤堂は良いのん?色々なんかめんどくさそうな感じするけど」 「ん?あぁ、まぁ別に僕は特に気にしてないから宮前君が彼と一緒にやりたいっていうなら特に反対する理由はないかな」 「っ~!お前のそう言う所が気に食わないんだよ!!」 「はは、羽月全然相手にされてないやん、クソワロ」 「めーちゃん、はづくんのメンタルフルボッコですぞ」 「……めいめい何だか俺に対して当たり強くない?」 「いやぁ、羽月ってちょっとまだ俺の中でリア充みたいな感じがして違う世界の人種みたいやなーって思ってたんやが藤堂とのやり取りみてたらめっちゃ弄りがいがありそうやなって、急に親近感湧いてきたんよ」 「うぅ、何だか褒められている気がしない」 「別に羽月のことディスってるわけやないから~」 「でぃす……?逆に俺はめいめいの口からどんどんあまり聞かない単語が飛び出してくるから一気に異世界の人間と話してる気分になってきたよ」 そう、遠い目をして言ったはづくんの言葉に思わず俺は苦笑を零したのであった。 ◇◆◇ そんな事があって皆で映画研究サークルに所属することになったんだよねー。

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