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第11話
「どうした?」
俺の苦笑を不審に思ったのか、宏が不思議そうに俺を見下ろす。
「いや…、宏の匂いは安心するな…と思って」
強く抱き締めて呟くと
「そうか?俺はお前達のように香水など着けていないからな…。臭く無いか?」
と、自分のシャツの匂いを嗅いでいる。
これが冷血無慈悲の氷の悪魔と呼ばれている生徒会長の本性だと知ったら、さぞかしギャップ萌えする人続出だろうな。
そんな事を考えながら
「で、どうする?今日はどっちが先に挿入れる?」
誘うように宏のシャツに手を差し込んで腰を撫でる。
すると宏は小さく笑い、ゆっくりと眼鏡を外して俺の顎を掴むと
「お疲れだろうから、俺が先に御奉仕致しましょうか?」
そう言って唇を重ねた。
俺はキスをしながら、身支度をして整えた制服のネクタイを外し、シャツのボタンも外して前を開く。
宏の唇がゆっくりと首筋を這い、胸元へと降りてくる。
跡を残せない俺の身体に、出来る事は限られている。
それでも優しく触れられるだけで、幸せな気持ちになるのが不思議だ。
どんなテクニックよりも、「好き」という感情が肌を触れ合わせて一番気持ちが良いのだという事を宏が教えてくれた。
俺の身体は何一つ自由にならない。
だから、宏が俺に挿入する時は必ずゴムを着けて身体を重ねる。
一度で良いから、愛する人の熱を直に感じてみたいと思っても、それは叶わない夢なのだと分かっている。
その分、宏は俺にそのままで挿入する事を求める。
「出来ない事を嘆くより、出来る事をやれば良い」
いつも俺を抱き締めて宏はそう言っていた。
絶望しかない生活の中で、愛とか恋とかからは一番遠くに居るからこそ求めてしまう。
逸人の時に思った感情を思い出して、自分が滑稽になる。
結局俺も、こうして宏に愛情を求めてしまう。人は、どんな絶望的な状況でも、愛を求めてしまういきものなのかもしれない。
俺達はお互いを求め、奪い合う。
それでも、行為の後の気怠い身体を抱き合いながら、他愛の無い話をしている時間が愛しかった。
お互いの頬を両手で挟み、額を合わせて微笑み合う。
ずっと…続くんだと信じていた。
たとえそれが、隠さなければならない秘密の思いだとしても…。
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