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第16話
「え?」
驚いた顔でその人を見ると
「宏君が、あなたのことを『自分には勿体無いくらいに綺麗な人』って言っていたんですよ」
そう言って微笑んだ。
「宏が…?」
驚いて呟くと
「ええ。あなたを自由にしたいと言っていました」
と言って俺を真っ直ぐに見つめた。
「俺を…?」
「えぇ。あなたはあそこに居るべき人では無いとおっしゃっていました」
俺は彼の言葉に思わず声を失う。
(馬鹿だな…宏。俺なんかの為に、危ない事をして命落として…)
ぼんやりと話を聞いていると、ゆっくりとアキラが口を開き
「それでだ…。此処にお前を連れて来たって事は、意味が分かるよな?」
そう聞かれて、俺は疑問の視線を向ける。
「あの屋敷をぶっ潰す。それには、お前の力が必要だ」
アキラに言われて俺は
「俺の力って?何も無いのに?」
力無く笑う。
すると俺の肩を掴み
「しっかりしろ!宏の仇を取りたく無いのか?そして、お前を家族から奪ったあいつを地獄へ叩き落としたく無いのか?」
アキラにそう叫ばれた。
「俺達は俺達のやり方で、あいつを地獄へ叩き落としてやろう。…もちろん、逸人もだ。あいつもグルになっている」
そう言われて、俺はアキラの顔を見た。
「お前は逸人の気を引いて、情報を引き出すだけ引きだせ。裏側の事は、俺達がやる。お前は…申し訳無いが、誘惑をしてお前とお前の家族の幸せをブチ壊し、お前から宏を奪ったあの2人に復讐するんだ」
と言われた。
すると、突然ドアが開いて
「俺達も手伝う!」
と、剛志と総士が入って来た。
「お前等…」
驚く俺に
「俺達、宏兄と約束してたんだ。あの屋敷をぶっ潰したら、遠い場所で兄弟みんなで穏やかに暮らそうって…。だから、その為に学校の勉強は知識として入れておけって…」
涙を拭いながら呟いた。
「宏が…知らなかった…。そこには、俺は居ないんだな…」
小さく呟くと
「帰る家があるから…」
総士がポツリと呟いた。
「え?」
「光兄には、帰る家があるからって。本当は…、一緒に行きたいと思ってたと思う。でも、俺達孤児とは違うからって」
いつの間に、この2人は真っ直ぐ人の目を見て話すようになったんだろう。
俺が出会った頃は、生意気で反抗ばかりして目も合わせなかったのに…。
「そうか…」
小さく微笑むと
「宏兄、光兄と付き合って変わったよ」
黙っていた剛志はそう言うと
「ずっと俺達に対して引け目を感じてて、卑屈になってたんだと思う。でも、光兄と付き合い始めて幸せそうに笑うようになって。俺達の事も気にしてくれるようになって、面倒見てくれるようになったんだ」
涙を拭って呟いた。
「大切な人が出来ると、その人を囲む全ての人を幸せにしたいと思えるようになったって…。だから…俺達が宏兄の分まで守るから!」
剛志と総士が泣きながら叫んだ。
(あぁ…、そっか。宏が撒いた種が、実ったんだな。お前に見せてやりたかったよ)
俺は心の中で呟いて、2人を抱き締めた。
そして覚悟を決める。
「宏の敵討ちだ。俺達で復讐して、あの屋敷を…赤司をぶっ潰す!」
そう叫んだ。
悔やまれるのは…、宏、此処にお前が居ないこと。
もしお前が此処に居たら、なんて言っただろうな…。
まぁ、お前のことだ。
『危ないことは俺がやるから、光輝はその手を汚さなくて良い』
そう言って、この手にキスでもしたんだろうな。
もうとっくに、手どころか身体も汚れ切ってる俺なんの為に…。
俺はそっと宏が眠る棺に触れて
「まだ…泣かない。泣くのは…、この復讐が終わってからだ」
そう呟いた。
そしてこの日、俺、アキラ、雪雅、剛志、総士と、特別捜査課の小倉さんの6人で諸悪の根源。赤司登を警察へ突き出すその日を目指し、結束した。
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