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第9話
「こちらの指輪はいかがでございますか? 稀少なアレキサンドライトをあしらったもので――」
商人がビロードの箱に納められた大粒のアレキサンドライトの指輪をアルフレッドに勧める。しかしアルフレッドの袖を掴んだシェリダンが静かに首を横に振った。
「アル、とても美しい品ですが私はこの指輪以外は、いりません」
そっとシェリダンが触れるのは、己の指に輝くサファイヤの指輪だ。同じ意匠でアメジストがあしらわれた指輪はアルフレッドの左手の薬指に嵌められている。アルフレッドがシェリダンの誕生日に贈った、お揃いの指輪だ。
高貴な者は幾つも指輪をつけているのが普通だ。だがシェリダンはこの指輪だけでいい。この指輪だけがいい。そんな風に言われてしまっては、アルフレッドも笑みを隠し切れなくなる。
「そうだな。だがアレキサンドライトは美しい宝石だ。指輪以外でないのか?」
視線を向けられた商人は不興を買ったかと肩を震わせていたが、アルフレッドの言葉にホッと小さく息をつき、ございます! と目を輝かせてアレキサンドライトがあしらわれた品々を並べ始めた。
アレキサンドライトは蝋燭の灯りや太陽の光などによって色を変える珍しい宝石で、当然値も張る。だがアルフレッドはあまり気にすることなく幾つものアレキサンドライトをあしらった品を見た。流石は富国オルシアの王といったところか。
あれこれと品を見ながら購入していくアルフレッドに顔を青ざめさせてアタフタするシェリダンを女官や側妃たちが宥めながら、なんとかその場を終わらせることができた。側妃たちも各々好きなものが買えて満足そうだ。ラーナとミュシカに王子たちへの贈り物を渡し、王女への贈り物はクレアに王女を世話している女官に渡すよう頼んだ。
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