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第2話

翌日も稽古に行き、昨日と同じように役者達とご飯を食べて帰ってきた。昨日と違うのは明日が稽古休みなので、少しだけお酒を飲んできたという事だ。  自身の酒癖が良くない事を自覚している優志は、なるべく外で飲む時は自重するようにしている、稽古中は特にそうだ。  だけど元々酒が好きなので、つい翌日が休みとなると少しだけその自重も緩みがちになってしまう。今日の優志もそうだった。 「はぁ、ただいまぁ~」  それでも足取りははっきりとしているし、眠気もないままに樹のマンションには帰って来られた。  帰ったら樹に電話をしたい、その想いがあったからきっと泥酔せずに済んだのだろう。  玄関に入ると昨日と同じように子猫達の出迎えにあった。優志は2匹を抱えるとキッチンへと進み、まずは子猫達にご飯を与えた。 「ごめんな、遅くなって」  キャットフードを美味そうに食べる猫達を撫で、冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出す。  それをごくごくと飲みながら優志はリビングへと向かった。時刻は昨日よりも遅く23時を幾らか過ぎている、まだ寝てはいないだろうかと少し心配になりながらソファーへ座るとスマートフォンをポケットから取り出した。  直ぐに樹の番号を呼び出し、耳へ当てる。呼び出し音が鳴っている間、ドキドキと胸が高鳴ってきた。  だが、その呼び出し音が10回を越え20回を越えても樹の声が聞こえてくる事はなかった。優志は諦めて終了ボタンを押した。 「……はぁ……」  まだ部屋に帰って来ていないのだろうか、それとも風呂か……寝てしまった?  メールにしようかと思ったが、またもう少ししたら電話をしようと思い、先に風呂へ入る事にした。  風呂へ入り、子猫のトイレ掃除を終えてもう一度樹に電話をしてみたが結果は同じだった。日付は変わってしまっている、これ以上遅くに掛けたら迷惑だろうか。  どうしようと思いながら寝室へ行き、ベッドへと寝転がる。  メールだけでも送っておこうか……本当は声が聞きたかったけれど……。  メール作成画面を開き、さて何を書こうかと指を動かしかけ、考える。  もう一度だけ電話をしてみようか。  だけど……。迷うように優志の指は画面の上を彷徨った。 「あ」  聞きなれたメロディーラインがスマホから鳴り響く。樹だ、そう思うより早く指は通話ボタンを押していた。 「は、はい……!」 「優志、ごめんな、電話貰ったのに出られなくて」 「ううん、大丈夫、今部屋?」 「あぁ、さっき帰ってきた……早く部屋に帰って来たかったんだけど、中々帰して貰えなくてな……」 「そっか……」  寝る前に樹の声が聞けてよかったと思いながら体を起こし、壁に寄り掛かる。 「樹さん、おつかれさま」 「優志も、おつかれさん、疲れてないか?」 「ん、大丈夫だよ……」  樹の声が優しく耳に響く度に、顔の筋肉が緩んでくるのが分かる。 今回の舞台はアクションシーンもあり、今日はその場面の稽古だった。正直疲れていないと言えば嘘になるが、今の優志の体は部屋に帰って来た時より軽くなってる。きっと樹のおかげだ。 「もう、眠いか?」 「ううん、平気……そんなに眠くないよ……お風呂入ったし……」 「そうか、明日休みって言ってたっけ」 「うん、だから駅まで迎えに行くね」 「……ありがとうな」 「……だって……はやく、会いたいから……」  恥ずかしかったけれど、電話だからだろうか、優志は心の声を素直に吐き出した。 それは樹も同じだったようで、同じ言葉が返って来た。 「オレもだ、早く会いたいよ……」 「……樹さん」  感情の籠もった声を聞いていると、今直ぐに会いたくなった。明日になれば会えるけれど、今直ぐに抱きしめて欲しい、心からそう思った。 「……樹さん……」 「優志……」 「樹さん……」 「……そんな声で呼ぶなよ」  感情駄々漏れな優志に樹は苦笑いで返す。優志は慌てたように、声を抑えた。 「ご、ごめんなさい、もう、切るね……」 「待てよ……もっと、お前の声聞いていたい……切るな」 「……樹さん……」  そんな風に言われたら感情を抑えようと思っても抑えられそうになかった。スマホをぎゅっと握り締め、名前を呼ぶ。  ぱたりとベッドに倒れシーツに顔を埋めると冷たくて気持ちよかった、顔が火照っていたようだ。だけど顔だけではないと感じていた。  耳元で聞こえてくる声は低く艶のある声で、それはいつもこのベッドの中で聞いている声だと思うと優志の中の劣情が堪らなく刺激された。 「樹さん………」 「優志……」 「………」 「何か喋ってくれよ」 「……何かって……だって、何、話していいか……分かんなくて……」 「何でもいいよ、今日の稽古の事とか」 「……うん……」  今日の稽古の事を思い出そうとしているのに、頭に浮かんでくるのは樹の顔だった。  ベッドには樹の残り香があるみたいで、それだけで樹に抱きしめて貰っている気分になる。 「……いつきさん……」  随分と甘えた声になってしまった。まるで強請っているみたいな声だ。  羞恥のあまり瞼をぎゅっと閉じる、さっきまで冷たいと感じていたシーツはもう生温かくなっていた。  体の中が熱いと思った。 「樹さん……名前、呼んで……」 「優志」  いけないと思いつつも優志は寝転がったままでそっとハーフパンツを下着ごとずり下ろした。  ふるりと出てきたそこは期待を持って上向き始めていた。 「……もっと……」 「優志……優志」 「樹、さん……」  ここにいない樹が握ってくれているように、空いている方の手で包み込み硬度を持ち始めたそれをゆっくりと擦り上げていく。  熱い吐息が零れる、樹に気付かれないだろうかと呼吸を殺すように唇を噛む。 「優志……」  スマホを少しだけ離し、その間に息を吐き出す。心臓はバクバクと煩く脈打ち、額にはじわりと汗が滲み出ていた。 「優志」  声が届いたのでまたスマホを耳に当て直す。  雄の形が完成したそれを更に擦り上げる、声が出てしまいそうで優志は息を止めていた。苦しくなると、スマホを離し熱い息を吐き出した。  そんな優志の変化に樹が気付かない筈がなかった。返事のない優志を不審に思ってか、優志と呼びかける声が大きくなる。 「優志、おい、どうした?優志?眠いのか?」 「……ううん、眠くない……名前……もっと、呼んで……」 「優志……」 「……」 「……優志、お前今何してる?」 「……なにって……別に……」  ドキドキしながら握ったままだったそれを離す、手の中は先走りで濡れている。枕元に置いてあったティッシュを数枚抜き出し、片手で丸めるみたいにしながら手の中を拭いた。  気持ちを静めるため優志は深呼吸をしてみたが、体の火照りが治まる事はなかった。 「……優志、答えろよ、何してた?」 「だから、何も……」 「じゃあ、当ててやろうか……優志……オレと電話しながらオナニーしてんだろ?」 「……し、てない……」 「嘘付け……いやらしい声してるよ、ベッドの中みたいな声してる」 「……ベッドにいるからだよ……だから、そう聞こえるだけ……」 「そっか、じゃあ……してないって事にしといてやるよ……」 「……ん」 「優志……」  耳の中を犯されているような声、それはベッドの中で襲い掛かられる前の声に似ているから、ぞくりとした背徳的な悦びに優志の体は無意識に震えた。 「……優志、じゃあ、このままセックスしようか……」

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