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第4話

 シーツが涙で濡れている。指を引き抜き体を起こす、寂寥感心に心が支配されそうだ。 「……ごめんなさい……」  弱弱しくスマホに呟くが、樹は返事をくれなかった。  呆れさせてしまっただろうか、不安になった優志は震えそうになる声でもう一度謝罪の言葉を口にした。 「……ごめんなさい……」 「優志……なんで謝るんだよ……」 「だって……オレ、我侭言ってる……困らせるだけなの、分かってるのに……ごめんなさい……」  涙が溢れ天井がぼやけて見える。ぎゅっと目を瞑ると大粒の涙が零れ落ちた。 「優志……オレの方こそごめんな……」 「あ、謝らないでよ、何で……樹さんが謝るの……?樹さんは悪くない……」 「悪い事してるよ……」 「してない……!」 「……してる……電話越しも悪くないかな、なんて思って……お前に意地悪してる」 「……意地悪……してないよ……」  ティッシュで指を拭き、丸めて枕元に転がす。ローションも空しく転がっている。 あんなに昂ぶっていた半身はしょんぼりと項垂れ、熱の冷めた体は少しだけ寒い。  我侭を言ってしまった事が恥ずかしくなった優志は、誤魔化すように明るい声を出した。 「じゃあ、迎え行くから……今日はもう……」 「優志」 「……ん……?」 「迎えはいいよ」 「……え?……帰り……遅い?」 「いや、遅くない……迎えはいらないよ」 「……オレ、行くの迷惑……?」  ネガティブな考えに支配された優志の声は段々小さくなっていった。一旦は止まった涙がまた溢れ出てくる。 「そうじゃないよ」 「……だって……」 「……会いたいのはオレだって同じだ……会いたくて、我慢が出来ないのは同じだよ、優志……」 「樹さん……」  だったら何故迎えに来なくていいなどと言うのだろう、一分でも一秒でも早く会いたいから迎えに行きたいというのに。  樹の意図が分からず優志は戸惑う一方だ。 「本当にお前に会いたかったんだよ、待たせてごめんな……」 「……樹さん……?」 「……えっと、電話、切るな……」 「え?!何で……?」 「いや、何でってな……もう必要ないからな……」 「……なんで……?!」 「……なんでって……こういう事だからだよ」 「……え……?」  突然寝室のドアが開く、反射的にそちらを見て優志は驚きの声を上げた。 「え……?!い、樹さん……?!」 「……あぁ……だから、電話切ってもいいって言っただろ……?」 「……え……だって、帰り……あしたって……」  スマホの通話を切り、樹を呆然と見上げる。樹はそんな優志を苦笑いで見つめていた。  ごめんな、そう言ってベッドへ乗り上げた樹は優しく優志の体を抱きしめ、愛しむように髪を撫でた。 「樹さん……」 「……あぁ、ごめんな、こんなに泣かせちゃったな……」  髪から耳へ、そして濡れた頬へ樹の手が触れる。涙を拭うように目元を撫でられ、その指先の動きがくすぐったくて、樹が目の前にいてくれる事が嬉しくて優志はまた瞳を潤ませながらも笑顔で答えた。 「樹さん……!」  腕を伸ばし、ぎゅっと樹の体に抱きつく。一昨日散々抱きしめて、抱きしめられたというのにもうこんなにも足りないと思っている。  今まではこの倍以上の時間を一人で過ごしてきたというのに、少しの間の辛抱も出来ない体と心になっている。 「……樹さん……」  抱きしめれば同じ力で樹は抱きしめてくれる。それが嬉しくて、何度も愛しい人の名前を呼んだ。 「優志」  見つめ合い、どちらからともなく唇を近付けた。触れた唇は待ち焦がれたもので、直ぐにそれは深いキスへと変わった。  

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