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第5話

 抱きしめられたまま体がベッドに沈む、樹の手は優志の体の表面を撫でながら深い息を吐き出した。 「……優志……」  自分で弄っていた時の何倍もの快楽が押し寄せる、まだ少ししか触られていないというのに、本人が目の前にいてくれるというだけで熱が再び体中を支配する。  項垂れていた分身も熱を帯び、期待で硬度を取り戻しつつあった。 「……ん、はぁ……樹さん……」  自分は裸になっているけれど、樹といえばまだシャツは羽織ったままだったし、着衣に乱れたところはない。さっき聞いた衣擦れの音はスーツの上着を脱いだ時の音のようだ。 「……皺になっちゃうよ……?」 「…あぁ、そうだな…」  半身を起こすと樹は衣服を脱ぎ始めた。脱いでいる途中で手を止め、ふと思いついた事を優志に尋ねる。 「風呂、入ってないけど……」 「……いいよ、もう、待てない……」 「……あぁ……オレも待てない」  ちゅっと音を立てキスをして、残りの衣服を全て脱ぎ捨てる。お互い裸になり再び抱き合った。肌に直接伝わる熱量に、気持ちの昂ぶりも最高潮へと達する。  キスをして、体中を樹の指先が辿り、舌で愛撫される。 「……あ、んん……!」  乳首に歯を立てられ、堪らず声が出る。電話越しではない生の声をもっと聞きたくて、樹は甘噛みを繰り返しながら反り返った優志自身を手の平に包み込む。  緩急を付けて扱き始めると、そこは涙を流し悦んだ。 「あ、ん、……いつ、きさん……も、ほし……樹さんの……」  強請るのなんて恥ずかしくて堪らないのに、早くも我慢の限界に達している優志は羞恥も忘れ樹の下半身に手を伸ばした。  優志同様に硬く質量を増したそれを、樹がしてくれているのと同様に両手で扱く。溢れ出した先走りを全体に擦りつけ、ぬるぬると擦り上げていく。 「……はぁ……優志……オレも……」 「……うん……」  お互いから手を離すと、樹は優志の両足を開脚させ蕾を眼前に晒させた。ひくひくと動くそこはこれから与えられるであろう刺激を今か今かと待ち望んでいるようだ。  解してあるとはいっても自分でも具合を見たいので、樹はローションで濡らした指を後孔の中へと押し入れた。 「……あぁぁ……」  柔かく解れたそこはまだ一本しか入ってない指をきゅうっと締め付けてくる。欲しいと言った言葉通りのそこに樹は満足気に笑った。 「優志、もう少し待ってろよ」 「……ん、うん……ぁあ、ん……あ、そこぉ……!」  二本に増えた指が優志の弱い所を押し上げる、もう待てないとでも言うように、そこはきゅうきゅうに樹の指を締め上げた。 「……優志」  擦り上げ、拡げるように攪拌すると樹の指は漸く引き抜かれた。  はふっと息を吐き出し、優志は押し入ってくる樹に備え全身の力を抜いた。 「……樹さん、きて……」  潤んだ瞳で見上げると、樹は半身を倒し額にキスをくれた。笑みを交し合うだけで、心の中が満たされる。  心だけじゃなく体の中も樹でいっぱいにしてほしい、優志はもう一度樹の名を呼んだ。 「樹さん……」  樹は頷くと、自身を入口に宛がった。  ぐっと入ってくる圧倒的な質量に、力を抜いていた優志だが、無意識の内に体の至る所に力が入ってしまう。 「……大丈夫か?」 「……ん……へいき……だから……」 「あぁ……」  優志の足を抱え直し、肩に掛ける。浅い所に留まっていた樹は最奥を目指すように、狭い坑道を力強く貫いた。 「……!!」 「……優志……?」 「……ぁ……」  奥へと入れただけで優志のペニスは限界を迎えてしまった。腹の上で弾けた精液を呆然と見つめていたが、余りの早漏っぷりに優志の顔が朱に染まる。 「ご、ごめんなさい……おれ……我慢出来なくて……」 「……いいよ……謝るなよ……」 「だって……ぁあ!い、つきさん……」  濡れたペニスを握りこみ、もう一度元気を取り戻させるようにゆっくりと扱き出す。  達ったばかりのそこに与えられる刺激は、倍増するように優志の快楽を煽る。まだ体中が性感帯のように感じているのに、一番弱いそこを握られてしまうと優志は溶かされてしまうような愉悦の波に溺れた。 「だ、めぇ……ぁあ、んん、いつ、いっ……ぁああ……!」  若い雄芯は再び立ち上がる、樹は硬度を増したそこを離すと次はこちらとばかりに後孔を攻め立てた。  浅いところから深いところへ、緩急付けて繰り返されるピストン運動に優志の腰が無意識に揺れる。 「樹さん……!」  もっと深く繋がりたくて、貪るように快楽を求めた。  腕を伸ばし、更に足を樹の背中に絡め揺さぶられるままに樹を最奥へと受け入れる。 「あ、あぁ……はぁ……いつき、さん……も、きもちい……いぃ……よぉ……!」 「……優志……」  かわいいよ、耳の中へ樹の低音が零れ落ちる。ぞくりとした快楽が背筋を這い上がっていき、もう二度も達しているというのに、また射精感が高まってきた。 「はぁ、ぁあ……んん……樹さん……はぁ……いつ、き……さん……」  ぐちゅぐちゅと音を立て、力強い律動が繰り返される。弱い場所を擦り上げられる度に、抑えきれない嬌声が優志の口から零れた。 「いつ、きさん……」  今ここに樹が居る事が、樹と繋がっている事が嬉しくて、うわ言のように樹の名前を呼ぶ。 「優志……」  最奥を抉るように突き入れられ、体が悲鳴を上げる。過ぎた快楽は痛みを忘れさせ、優志の体を愉悦で満たした。  ラストスパートとばかりに激しく貫かれ、優志は体の奥で増大していく樹の快楽を感じた。 「ぁああ……!」  熱い飛沫を奥まった場所に感じ、優志は思わず樹の背中に爪を立てた。その衝撃の後、優志も三度目の精を放った。 *** 「……帰ってきて大丈夫だったの……?」  熱いシャワーを浴びさっぱりした二人は再びベッドの中にいた。心配そうな視線を苦笑で受け止めると、樹は優志の頭を優しく撫でた。 心配ないよ、と言っているような優しい触れ合いに心の中がくすぐったくなる。 「取材は今日……もう昨日になってしまったけど終わっていたしな、最終日は帰ってくるだけだったから……本当はもう少し早く帰ってくるつもりだったんだけどそうにもいかなくてな……」  取材先でお世話になった人達や一緒に行った編集部の人達と、最後の晩なのでささやかではあるが宴会となった。流石にそれに出ないで帰ってくる訳にはいかないし、出たら出たらでなかなか離してもらえなくまいった。  しかも新宿に着いたはいいが人身事故で電車が遅延していたので、帰ってくるのにいつも以上の時間を要してしまった。 「とにかくまいった」そう話す樹の顔は少しだけ疲れているように見える。優志はさっき自分がされたように樹の頭に手を伸ばし、労わるように優しく撫でた。 「……お疲れ様……」 「……大丈夫だよ、優志の顔見たら疲れなんか吹き飛んだ……」  視線を交わし合い、微笑み合う。たったそれだけの事が嬉しい。 「……ありがと……帰ってきてくれて……うれしい……」 「会いたかったからな……本当は直ぐに優志に会うつもりでいたんだ……でも何度も電話を貰っていたし……それに驚かせようと思ってな……」 「……樹さん……」 「書斎で電話してたけど、ずっと寝室に入りたかった……電話越しでもいいかな、なんて思ってたけどな、始めから隠さないで会ってればよかったな……ごめんな」 「……ううん……もう、いい……帰ってきてくれただけで……それだけで……」 「……ダメだな、こんなんじゃ……」  抱き寄せられ、額にキスをされる。弱弱しく呟かれた言葉に顔を上げると、そこには情けなく微笑む樹の顔があった。 苦笑とも自嘲ともとれるその表情の意味を計りかね、優志は小さく首を傾げた。 「……離したくないと思ってる……」 「……樹さん……」 「稽古中はここからの方が近いからここから通えば良いって言ったけど……ダメだな……」 「え……?」 「……稽古……終わっても……お前がここにいたいって思ってくれるなら……すきなだけいていいからな……?」 「……え?!」 「……いやならいいんだ……」 「いやじゃないよ……でも……」 「ん?」 「……いいの?」 「……あぁ……」  ぎゅっと抱きしめられると、それは言葉と同じで樹の気持ちが伝わってくる。離したくないと思ってる、それは自分だって同じだ。 「……一緒に住んでほしい……」 「樹さん……」  離したくない、離れたくない。だけど、優志は樹の言葉が嬉しいのに、即答出来る返事を持ち合わせていなかった。  どうして迷う必要があるのか、と自分でも思う。  だけど、まだここにいていい自分ではないと優志自身が思うから。 「……もう少し……考えていい……?」 「優志……」 「……オレも一緒にいたい、ここで樹さんと暮らしたい……でも、オレここに来たら一杯甘えちゃう、精神的にもだけど……多分経済的にも甘えちゃう、生活費折半するとかまだ出来ないから……だから……ちゃんと……樹さんと一緒に生活出来るようになってからここに来てもいい……?」  優志の言葉を一語一語聞き逃さないように、真剣な表情で聞いていた樹は優しい表情で頷いてくれた。 「待つよ……だから早く……ここへ来てくれ……」 「うん……また、目標が出来た……」 「そうか……」 「うん……オレ、頑張る……頑張っていい役者になって……樹さんの隣りに立てるような人間になって……この部屋に来たい」 「あぁ……待ってるからな」 「うん……」  あまり待たせないように来れれるだろうかと少しだけ不安にもなったが、それでも樹は待っていてくれるだろう。  二人は誓い合うようにキスをして、それぞれの想いを胸に目を閉じた。 「……おやすみ」 「おやすみなさい……」  一日だけ離れていただけなのに、樹の温もりは直ぐに安眠を運んできた。それは樹も同じだったようで、おやすみと言い合って直ぐなのに、寝室内は二人の小さな寝息が聞こえ始めていた。 完

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