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短編2
*本編終了直ぐ位の話。
「樹さん……」
「ん?どうした?」
優志のいつにない真剣な面持ちに、樹は一瞬暗い気持ちになり掛けた。だが、今日は優志から泊まりに来たいと言い出したのだし、抱かれても嫌がらなかったのだ、単に言い難い事なのだろうと検討をつけた。
まさか蜜月なのに別れ話ではあるまい。
樹の部屋にある寝室のベッドは男二人が寝ても余裕がある。それでもまるで狭いベッドの中のように二人の間に隙間はほとんどなかった。そして情事の後の二人は裸のままだ。
優しく先を促すように優志の頭を撫でると、それに勇気を得たのか、躊躇いがちにではあるが口を開いた。
「あのね……お願いが……あるの……」
「お願い?いいよ、何?」
優志の願いだったら何だって叶えてやりたい、そう思うから樹は考える間もなく即答えた。
「……うん……」
「遠慮しなくてもいいよ、オレに出来る事なら何だってするよ」
「うん……」
だが、余程言い難い事なのか、優しく促しても優志は中々言い出せないようだ。
もじもじとした様子を見せる優志に、樹はにやりとからかうように笑った。
「何だ、足りなかったからもっと抱いて欲しいっていう催促か?」
「ち、違うし……!」
真っ赤になって否定する優志が可愛くて、つい苛めたくなってしまう。
「じゃあ、目隠しプレイとかして欲しいとか?」
「ちが……い、樹さんはしたいの……」
「……まぁ、お前が嫌じゃないなら……何でもしてみたいと思うけど」
「……なんでも?」
興味と好奇心が優志の顔に浮かぶ。
「あ、何でもはないな……優志が痛いのとかは嫌だからな、SMとかはしないし…スカトロも興味ないしな」
「お、オレだってそれは無理だし!」
「そうか、それは良かった、で、何だ?」
「うん……あのね、もし、迷惑じゃなかったらでいいんだけど……」
「うん」
「……オレの……着替えとか置いておいてもいい……?」
何だそんな事かと思った樹はぽかんとしてしまった。直ぐに答えてくれないので、ダメだと勘違いした優志は慌てて首を振りごめんと謝ってきた。
「ごめんなさい、あの、なんでもない」
「いや、違う、全然構わないよ、もっと何か違うお願いかと思ったからさ……いいよ、すきなだけ置いてくれ」
「……いいの?今もちょっと置いてあるけど……スニーカーとか上着類も……持ってきても平気?」
「勿論、そうすればいきなり泊まりに来ても大丈夫だもんな」
「……うん」
嬉しそうにはにかんで笑う優志に目を細め、愛しそうに見つめる。嬉しそうな口元にキスを落とすと、優志はおずおずとまたもう一つ、と言った。
「いいよ、何?」
「……あのね、あと……オレの……」
「ん?」
「オレの……食器とか……持ってきてもいい……?」
「食器か……」
「うん……その、ダメならいいんだ、今だって食器足りない訳じゃないんだし……」
貰い物などで食器などは必要以上にある。だから足りなかった事はなかったが、それでもこの部屋で使う用の自分の食器が欲しいと優志は思っていた。
この部屋に自分が居る事を示す、そんな物が欲しかった。
「いいよ、だけど」
「……だけど?」
優志は不安そんな顔で樹を見つめた。樹はそんな優志に柔かく笑いかける。
「オレが選んでもいいか?」
「え……?」
「二人で買い物に行こう、それでオレに選ばせて欲しい……優志が使う物をオレに揃えさせてくれ」
「いいの……?」
「あぁ、そうだよな、思いつかなくてごめんな、もっと早くに用意しておけばよかったな」
「ううん、そんな事ない……ありがと、樹さん……」
「明日休みって言ってたよな、じゃあ、買い物行こうか」
「うん……で、でも……」
「ん?」
「……もぅ、しない……?明日……その……動けなくなったら困る……」
「……そうだな、困るよな」
「……でも……オレ……まだ……してほし……わ!」
思わず優志を抱きしめてしまった。あまりに可愛い事を言う方が悪い。もう止めようと思ったのに、そんな気持ちどこかへ吹き飛んでしまった。
「……煽るなよ」
「あおってない……」
「いい?」
「……ん……いいよ……買い物……その、ネットでもいいし……」
「そうだな、それでもいいな、じゃあ遠慮しなくていいな」
「……ん」
ニヤニヤと笑った樹に対し、また優志の頬は赤く染まる。だが、浮かんだ笑顔は幸せに輝いていた。
「二人で選ぼうな」
「……うん」
深い口付けが合図だったように、二人の熱が絡み合った。
完
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