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第6話

コンコンとノックをすると直ぐに返事があった。書斎に入ると、樹はパソコンに向かいながら謝罪を口にした。 「ごめんな、もうちょっと待ってくれるか?」 「うん……オレは……大丈夫だけど……」 「悪いな」 「ううん……じゃあ、がんばってね……」  終始背中を向けられていた事が少し寂しい。仕事中はいつもこうなのだからいい加減自分も慣れればいいのに、そう思うけれどなかなか慣れる事が出来ない。  しょんぼりとしながらリビングへ行くと子猫達が駆け寄ってきた。にゃーにゃーと鳴く2匹は優志の足に纏わり着いてくる。 「はぁ……樹さん、お仕事なんだって……」  ソファーに投げ出されていたねこじゃらしを手に取り、それを左右に振って子猫達をあやす。ねこじゃらしの先には糸で小さなネズミが付いている。2匹はネズミが左右に走る度にその動きを追って駆け回る。  段々面白くなってきた優志は大きく振り回したり、速度を変えてみたりしながら暫し小猫達と戯れた。 「ふはは、かわいいなぁー……」  とたとたとネズミを追いかける子猫達を見ていたら、もやもやしていた気持ちが晴れてきた。  仕事なんだし仕方ない、誕生日なのに頑張っているんだから応援しなきゃなのに……。  それなのに、相手にしてくれないと拗ねて不満を漏らしそうになってしまうなんてダメだ。 「そうだ、樹さんにコーヒー持っていこ、ごめんな、また遊ぼうな」  ねこじゃらしをソファーへと放ると、優志はキッチンへと移動した。子猫達はソファーに置かれたねこじゃらしにじゃれ出して遊び始めた。  キッチンでコーヒーを淹れ、それを持って今度は書斎へ行く為に廊下に出る。先程の書斎からの帰りより心が幾分軽い。 書斎の扉をノックして、控えめに問う。 「樹さん……コーヒー持ってきたけど飲む?」 「あ、あぁ、ありがとう」  中に入ると、樹が振り向いてくれた。少しだけ疲れたような笑顔、帰ってきてからゆっくり出来ていないので、疲れているのも当然かもしれない。  優志は労わりを込めてマグカップを差し出した。 「お疲れさま」 「ありがとう、優志」 「じゃあ、がんばってね……」 「ごめんな、もうあと少しだから……」 「ううん、平気だよ」 「……そっか、ごめんな」 「じゃあ……」  にこりと笑って書斎を出る、樹の方が寂しそうな顔をしていたが優志はそれを疲れのせいだと思っていた。 「寝ちゃったのか……」  リビングに戻れば子猫達は丸まって寝ていた。猫用ベッドがあるので、2匹を抱えて寝室へと向かう。樹のベッドの横に猫用ベッドが置いてあるのだ。  猫用ベッドへ子猫を下ろし、優志ははぁっと溜息を付いてベッドに仰向けに倒れこんだ。 「はぁ……」  また溜息が洩れる。ごろりと反転して今度は枕に顔を埋める。 「……はぁ……」  樹の匂いがして余計に切なくなる。さっき応援しなきゃって思ったのに、もうダメだ。  今直ぐ抱きしめて、キスして、樹さんが欲しいよ。言える訳がないそれらを心の中だけで呟く。 「あぁ、オレってめんどくさい……」  ぎゅっと目を瞑り、切なさをやり過ごそうとしたが、そう簡単に気持ちが切り替えられる訳もなくて。  樹さんのバカ……言葉にはならなかったけれど、それは完全に八つ当たりでしかないけれど、優志の本心でもあった。  コンコン。静かにノックする音がする。  コンコン。先程よりも少し大きめの音。  コンコン。漸く優志はノックの音に気付き、目を開けた。がちゃりという音と共に寝室に樹が入ってきた。 「優志?」 「……あ、樹さん……」 「ごめん、寝てたか?」 「……ん……うん……ごめん、寝ちゃった……」  目を擦りながらむくりと起きると、樹が苦笑いを浮かべながら近付いてきた。 「……今、何時……?」 「あぁ……そろそろ日付変わる……ごめん、オレ時間見てなくて……」 「ううん……もう、お仕事大丈夫なの?」 「終わったよ」  起き上がった優志の体を樹はぎゅっと抱きしめた、それはずっと欲しかった抱擁で、優志は堪らずその背中を抱き返した。 「……樹さん……」  顔を上げキスを乞う。直ぐに唇が塞がれ、舌が入り込んできた。  夢中でキスを交わし、気付けば優志はベッドへ押し倒されていた。 「……樹さん……」  このまま抱いてくれるのだろうか、そうだったらいいのに、そう思った優志の願いは脆くも崩れた。 「ケーキ、食べようか」 「……あ……」  離れていく樹の顔に、思わず声が洩れる。その声に樹はにやりと笑い、また顔を近づけ耳元に低音を落とす。 「……もう少し、待ってくれよ……優志」 「……」  期待を見透かされて優志の体温が上がる。頬を染めた優志を愉しそうに見つめ、その手を取り抱き起こしてくれた。 「せっかく作ってくれたんだ、日付が変わる前に食べたいからな」 「……うん……」  立った状態でもう一度抱き合う、それは直ぐに終わってしまったけれど、樹の顔には優しい笑みが浮かんでいて、優志はそれだけで胸が一杯になるのを感じた。

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