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第5話
「ケーキ食べる?」
「いや、まだいいかな、後で貰うよ」
「うん、そだね」
まだ食べたばかりなので二人ともデザートの余裕はなかった。
食後のお茶を飲みながら夕飯の余韻に浸る。
「あ、お風呂入ってくる……?」
「そうだな、そうさせて貰うか……」
「オレ片付けしてるから入ってきて」
「あぁ、出たら少し飲むか?」
「あ、うん、いいね、じゃあ、オレ用意しておくね」
「あぁ」
キッチンから樹が出て行くと、夕食の後片付けを始めた。食器やフライパンを洗い、テーブルをキレイに拭く。
飲みたいっていってたのはきっとお酒だ。夕飯と一緒に飲んでもいいかなって思ってたけど、うっかり聞きそびれてしまったのだ。
折角だから新しいワインとか買っておくべきだったな……。今年はあまりにも計画性がなかった、結果的には上手くいっていると思うが、誕生日らしい事をもっとしたかったと思う。
冷蔵庫には買い置きの缶ビールが何本か入っているので、それでいいだろうか。
あとは貰い物の芋焼酎と日本酒が食器棚に入っている。あ、冷蔵庫に日本酒の小さい瓶も入ってたけど、何がいいかな。
食器棚からコップを二つ出し、それをリビングのテーブルに置いておく。多分ビールだろうと検討をつけて。
何かつまみとか作った方がいいかな、冷蔵庫を覗いていると樹が戻ってきた。シャワーだけだったからか、二十分も掛かってない。
「優志も入っちゃえよ」
「え……でも……」
「待ってるから、っていうか、ケーキ食べるのに飲んだら食べられなくなりそうだよな」
「……うーん、確かに……ケーキとお酒っていうのもおかしいよね……」
「あぁ、今日は飲みはなしにしようか、優志が出たらケーキを食べよう」
「うん……じゃ、じゃあ、入ってくるね」
「あぁ」
笑顔で送られて優志は寝室へ行き、下着と部屋着を取ってくるとそのまま脱衣所へ入っていった。
シャワーだけなので、二十分程で出られたのだが、これからの事を考え念入りに体を洗っていたら一時間近くもかかってしまった。
何をそんなに時間を掛けているのだと呆れられたらどうしようと思ったが、リビングに戻ると樹はそこにいなかった。子猫二匹が丸くなりソファーで寝ているだけ、キッチンも然り。
もしかして寝ちゃったとか……?
寝室に行くがそこは無人だった、ならばと思い書斎に行くとそこに樹はいた。
「……樹さん……ごめん、待ったよね……」
「優志、いや、ごめんな、ちょっと書留めておきたい話が出来てな……ちょっとだけ待っててくれ」
パソコンの画面から視線を移した樹は申し訳なさそうに謝った。
「うん、オレは大丈夫だからお仕事がんばって」
「悪いな、直ぐに済ませるから」
「ううん……じゃあ…」
カタカタと忙しなく指を動かしてキーボードを叩く樹を後に残し、優志は一人リビングへと引き返した。
そのまま書斎にいても良かったかな……仮眠用のソファーもあるし、そう思い書斎を振り返る。だけど一人の方が集中出来るか、邪魔しちゃ悪いよね……。
止めた足を歩みにかえ、優志はリビングへと戻った。
一人になると何をして樹を待てばいいのか分からなくなった。見たいテレビ番組があった訳ではないが、とりあえずテレビのスイッチを入れてみた。子猫もまだ寝たままだ、そっと手を伸ばし2つの毛玉の背中をゆっくりと擦る。
22時を過ぎていてやっているのは報道番組が多かった。小さめの音でそれを眺めていると30分が経過していた。
「………まだかなぁ………」
誕生日位休めばいいのに、そうは思うが書ける時に書いておきたいものというのがあるのだろう。今までだって、そういう事はあったから待つのには慣れてる。
慣れてはいるけれど、寂しくない訳ではないのだ。
「……はぁ……」
催促する訳ではないが、様子を見に行こうと優志は書斎へと向かった。
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