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短編1

「……うわぁ……」  優志は女性向けファッション雑誌を見ながら感嘆の声を出した。その雑誌は事務所に置いてあったもので、中を開くと見知った女性モデルが載っていた。  美肌特集などと書かれたそれらを見ている時、優志はある一ページに釘付けになった。  美尻。  今まであまり意識した事はなかったし、女性のお尻には興味がないし、どちらかといえば男性の引き締まったお尻の方がすきな優志だったがこのページには衝撃を受けた。  ……柔かそうだし、すごくキレイ……。  そのページは背後から全身を写した写真が掲載されているのだが、そのモデルとなっているのは優志も知っているテレビで見た事のある俳優だった。  男でもこんなにもっちりなお尻ってあるんだー……。  食いいるように見つめながら、自分のお尻を省みる。  ……そういえばあまりボディーケアってしてない……。  樹さんもすべすべももちもち肌の方が好きだよね……?  優志は考え込むように、真剣な眼差しを雑誌に落としていた。 *** 「幸介さん……あの、今日部屋に行ってもいいですか?」 「ん?あぁ、いいけど、どうした?」  優志の思いつめたような声に幸介は心配そうな声で答えた。すると優志は夜に部屋に行きますと言って電話を切ってしまった。  通話の切れたスマホを見つめ、幸介は首を傾げた。この時から既に、幸介は嫌な予感を感じていた。  夜、約束通り部屋に優志がやってきた。 「これ、お土産です」 「……あぁ、ありがと」  差し出されたのは缶ビール6本パック。ビールであって発泡酒ではないあたり、優志なりの気の遣い方なのだろう。優志だけが飲むのなら多分発泡酒で済ませる筈だ。  冷えたそれを1本優志に差し出すと、嬉しそうに礼を言われた。 「で、どうしたんだよ……」  つまみ代わりのスナック菓子が1袋終わった辺りで幸介は切り出した。既に二人とも2本目のビールだ。  優志は少しだけ上気した顔で、躊躇うように口を開いた。 「あの……」 「なに……」 「幸介さん、あの……」 「なんだよ…」 「あの、お、お尻見せてください!」 「は……?!」 「お、おしりを……」 「………」  ソファーの中でずいっと優志が寄ってくる。酔ってんのか?とも思ったがまだ2本目だ、酔いが回るには早い。 「優志、お前……」 「あの、出来れば触らせて……」 「セクハラ?!」 「ち、違います!」 「セクハラじゃなきゃなんだよ、ちょっと待て、お前ネコだろ、オレの尻に興味はない筈だ!」 「興味あるから見せて下さいって言っているんじゃないですか!」  引き攣った顔で、迫ってくる優志から逃げるが狭いソファーの中では直ぐに追い詰められてしまう。  尻を見せるのはいいとしても触らせてくれってどういう事だ、興味あるってどういう事なんだ。  いつも冷静な幸介だったが、多少酒も入っている事で思考はパニック状態だった。 「優志……おい、何すんだよ!」 「だから、見せてもらおうと……」 「見せるとは言ってねぇだろ!」  ベルトのバックルに手を掛けてきた優志の手を払いのけるが、体重を掛けて押し倒されてしまった。  ありえない、優志に押し倒されるとか本当にありえない……! 「お前タチに転向したのか……?って、待て、お前、守川樹と付き合ってんだろ?どうしてオレの尻なんかに興味持つんだよ!見せてもらうなら彼氏の尻で我慢しろ!」 「だめですー、幸介さんのお尻じゃないと……!」 「嫌だ!」 「……だめですかぁ……?」 「……だめだ……」 「……わかりました……」  渋々といった表情で優志が幸介の上から退く。仕方ないと言って優志は溜息を吐いた。  溜息を吐きたいのはこっちだと内心毒づく。 「じゃあ……太一君に見せてもらうからいいです」 「待て、よくないだろ、何だそりゃ!」 「だって、幸介さん見せてくれないんだもん!!!」 「見せたらどうなるっていうんだよ!!!」 「参考にするんです!!!」 「……参考?」  はい、といって優志はこくりと頷いた。やけに素直に頷くのだが、参考って何だ?  疑問はそのまま口に出た。 「何の参考だ?」 「だからお尻の」 「……は?」 「幸介さん、お尻すべすべかなって?柔かいかなって……」 「……オレの尻はすべすべでもなきゃ柔らなくもないぞ……」 「でも、見せてください」 「……」  真剣な眼差しだが、言っている事はふざけているとしか思えない。いや、本気なんだろうけれど。  幸介は脱力した。  多分優志はすべすべで柔らかな尻になりたいとか思っているのだろう、それで他人の尻を見てどう手入れをしているのかとか聞きたいって事だろう。  どうしていきなり見せてくれ、から入ってくるのだろう。どうして訳を話してから見せてくれ、にならないのだと幸介は呆れた。 「……どうしても見たいのか?」 「はい」 「……はぁ……」  その後幸助は諦観の念で尻を見せたのだが、まじまじと見られる上にぺたぺたと触られ、羞恥プレイだと心の中だけで優志を罵った。  そしてその結果。 「えーと、オレね、最近ボディークリーム使ってるんです、マッサージしながら塗り込んでちょっとすべすべになったかなって……」 「そうか、よかったな」 「はい、で、幸介さん、オレのお尻触ってください」 「……」 「ちょっとまだ樹さんに見せるの恥ずかしいし、まだすべすべ感がよく分からないので、ちょっと触ってもらっていいですか?」 「……」  今度はそっちにいったのか……まさかの羞恥プレイ第二弾だ……。  事務所内の応接間には二人しかいない。優志が話があると幸介を誘ったのだ、うっかりしていた。あれから2週間程経っていたし、こんな所でそんな話をしてくるとは思ってもみなかったのだ。  逃げ場を失った幸介は、返事もしてないのに脱ぎ出した優志をまたもや諦めの境地で見ていた。 「どうです?」 「……」  恥ずかしそうにならまだしも、どや顔で尻を見せられるこっちの身にもなってくれ……。  白い尻は確かに以前よりもすべすべになっている気がする、ざらつきが落ちたとでも言おうか。 「触ってみてください、結構すべすべなんですよー」 「……」  仕方なく手を尻に向けると、突然応接間のドアがノックもなしに開いた。 「二人とも、夕飯なんだけど…………何してんのよ、アンタたち!!!」 「え、あ、あの、これは誤解ですよ?!」 「幸介さんにお尻見てもらってたんですー」 「ば、ばかかお前?!」 「お尻?!幸介、アンタ、優志に何してんのよ!」 「だから、誤解です、こいつが尻触ってくれって……!」  その後岩根から小言を言われた二人だったが、岩根が優志のもちもち美尻計画に一役買った事を幸介は知らない。 完

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